飯塚 尚明

 

「最近は労働賃金の安い外国製の防具も多く出回っているのですが、やはり手作りのものとは使っていると違いが出ます。たとえば面にしても、頭を被う面布団を機械で縫うのと手縫いとでは大きな差が出るんです。

機械縫いは一見、目も細かくきれいに仕上がっていますが、その分、硬い。つまり、面をつけて戦った時に面が衝撃を吸収できないから、頭に衝撃が来る。でも手縫いだと、適度な柔らかさを持たせられるので、頭に受ける衝撃を吸収してくれるんです」

これは面に限らず、胴具、小手、垂と全ての防具や竹刀にもいえること。手仕事の剣道具は全て注文品。出来上がるとすぐ納品するため、飯塚さんの元にあるのは、先代が製作した1点だけ。

「これはもう60年くらい前のものです。父が作って、兄が使い、私が譲り受けて使って、息子が使ったものです。父がいい仕事をしているので、まだまだ使えますよ」ひとりひとりの体型、体格に応じた剣道具を作る飯塚さん。

「注文主に会って、その人の体型を考えて、丸みをつけたり幅を考えて制作します。寸法ですか? 計りません。計らなくてもわかりますよ(笑い)」
匠の匠たるゆえんです。

剣道が、それまでの武士たちだけのものから、明治時代になって庶民の間にも普及しはじめると、剣道具を作る職人も急速に増えました。「その頃は、都内にも相当数の剣道具店が存在して、剣道具を作る職人の数もかなり多かったようです」

また大正、昭和期になると、剣道が学校の授業に採用された事もあり、ますます剣道具の需要は高まりました。「でも、今では、都内に数件になってしまいましたね」

寂しそうに話す飯塚さんですが、まだまだ自分が頑張れるという自負と気迫が感じられ
ました。

飯塚剣道具店・芝三丁目