株式会社麻布タマヤ
個の尊重と相互の協力体制構築が、ワーク・ライフ・バランスにつながった

 株式会社麻布タマヤは、カーペットやカーテン、壁紙等の卸販売、リフォームを行う企業です。1934年、現代表の祖父が内装材料の問屋として創業し、時代の流れとともに業務の幅を広げてきました。大事にしているのは、お客様が真に求めている何かを探り最適な提案すること。そのお客様との信頼関係の積み重ねが、90年近い歴史を作っています。

 社員数は12名で、男女半数ずつ、23歳から79歳までの社員が働いています。

 当社が新規に港区のワーク・ライフ・バランス推進企業の認定を受けたのは、2016年。認定のために特別なことをしていたわけではなく、当社が実践していたことが、実は認定事業の方向性に合致していたと気づいたのがきっかけでした。

 

業務分担を明確化にし、効率化を図る

かつての当社は、一人のお客様に対して、営業から提案、見積り、現場作業など全て一人の社員が担当していました。そうなると、複数のお客様からの要望が集中した場合、その社員だけではスピード感をもって対応できなくなります。さらに、業務の流れのなかには、その社員が不得意なものもありえます。お客様にもっと高い価値を提供するために、できることがあるのではないか-そこで社長は、顧客ごとに仕事を分担していた体制を見直し、各々の業務範囲を明確にして分担することで効率化を図ろうとしました。2008年頃のことです。

意識して行ったのは、案件・スケジュールの共有でした。定期的にこれらの共有会議を行い、「この人でないとわからない、できない」を取り除くようにしていきました。併せて、業務分担も、社員それぞれの得意分野を考慮して見直しました。

それらの粘り強い実践により、社員一人ひとりが、フォローに向けて徐々に動けるようになりました。当社ではもともと、社員に数値目標やノルマを課しておらず、社員がいたずらに競争心をあおられることもなかったのも奏功しました。そして社員各々が、自信のあるもの、得意なものにしっかりと取り組める体制をつくることで、ミスやストレスが軽減されるとともに、お互いに尊敬し、感謝しあえる風土が醸成されてきました。

昨今は、イントラネットのカレンダーを有効活用しています。カレンダーには、予定をできるだけ細かく入力します。たとえば配達なら、「どこに、何を、何時までに届ける」という情報を記載しておくと、別の社員が、「それなら自分がまとめて配達しよう」などの声掛けが生まれることもあります。逆に、誰かに助けてほしいときは、「ヘルプ」と書くなど、助けを求めやすいようになっています。

結果として、社員は時間と気持ちに余裕を持って業務に当たれるようになりました。当社の所定労働時間は平日9~18時ですが、コロナによる緊急事態宣言下で17時退勤(賃金控除無し)を認めたところ、緊急事態宣言やまん延防止措置が解除されても、18時まで会社に残る社員はほとんどいなくなりました。限られた時間でいかに効率的に業務に対応するか、自身で組み立てられるようになったのです。

 

 

社員は商材や施工方法を熟知し、きめ細かくスピーディーにお客様に対応する。

オンライン相談も行っている。(当社ホームページより)

 

 

気持ちよく働くためのコミュニケーションを確保

 もちろん、当社は単に効率化を目指しているだけではありません。社長が大事にしているのは、お取引先や社員など、当社と関わるすべての人たちが幸せになること。そのために、心の通ったコミュニケーションの確保に努めています。そのうち2つを紹介します。

 

①日報の提出とフィードバック

社員は毎日日報を書き、社長はそれにコメントを返しています。これによって、社長は社員の考えや悩みをタイムリーに把握することができ、業務分担の調整やトラブル対応もしやすくなります。

なお、日報には、その日の業務内容や相談事項の他に、「感謝したこと、感心したこと」という欄が設けられており、社員は必ずそこを埋めることになっています。この、「誰かが誰かに感謝している」という情報が間接的にでも伝わると、感謝された方は嬉しくなり、より仕事への意欲が増すという効果が生まれます。

面白いことに、最初は無理やり「感謝」を探していた人も、習慣化するうちに「感謝の見つけ上手」に成長します。一般的に競争社会では、同僚や関係者の高評価につながることを率先して上司に報告するのは簡単ではありませんが、当社では皆がこぞって周りの「優れたところ」を報告し合う風土が醸成されました。

 

②トラブルの共有

業務遂行上トラブルはつきものですが、それを気に病んでしまっては業務にも支障が出てしまいますし、何より本人がつらいものです。

当社では、問題が起こったらすぐに相談し、不安を分かち合えるという環境が何よりも大事だと考えています。会社が潰れるレベルの問題でなければどれもいい勉強、あとは再発防止のために皆で知恵を出し合おう、というスタンスを保っています。その一環として、「トラブル発表会」が定期的に開催されています。発表会は「その人を責める時間ではない」と徹底し、敢えて美味しいおやつを準備するなど、気持ちを和らげるような気遣いがなされています。

 

お客様を思う気持ちが、取組の起点となった

当社の取組はこのように、「お客様により良い提案を行うため、社員は何ができるか」の検討が起点となったものです。その提案力の磨き上げの過程が、ワーク・ライフ・バランスの取組と符合したものと言えます。

社員それぞれが「自分が必要とされている」と思えることが何よりもの報酬であると、当社の取組は教えてくれます。

 

 

株式会社麻布タマヤ  https://www.azabu-tamaya.co.jp/

【所在地】東京都港区東麻布3-4-15

【創業】1934年7月

【代表者】代表取締役 志賀 律子

【従業員数】12名(2023年6月現在)  

【取材日】2023年6月7日

 「平成28年度 港区ワーク・ライフ・バランス推進企業認定」