Xsym株式会社
Xsym株式会社
製造業の現場にも足を運び
暗黙知も学習させたAIを開発
Xsym株式会社
代表取締役CEO加藤 真平

代表取締役CEO
加藤 真平さん/Shimpei Kato
国立群馬高専卒業後、筑波大学第3学群工学システム学類に進学し流体力学・シミュレーションの研究に従事。同大大学院を卒業後、仏系メーカーに入社しグローバルのコンピュータシミュレーション技術開発PJをリード。 2014年にAIスタートアップに参画し、社長室トップとして大手企業(製造・金融・素材・食品/リテール・IT等)との資本業務提携ならびにAI x ヘルスデータの提携プロジェクトの創出・新規事業化・収益化をリード。その後、ディープテック(AI)企業の代表として同社の経営を創業フェーズから2024年まで担い、経営全般ならびに大手各社との共同プロジェクトの創出・推進をリード。売上320%成長を達成。
退社後、2024年に当社を共同創業。
産業・企業の「かつての」勢いを
これからにつなげるために、
日本らしいAI化のアプローチは本当にないものか
―「Xsym」では、どんな事業を展開していますか。またそのモチベーションは。
私たちは、近年急速に進化したシミュレーションと近年のAIを掛け合わせ、ヒトの感覚・知恵・暗黙知を吸収した、ヒトの認知・判断を模倣したコンピュータービジョンとロボティクスの技術の研究開発や、自律化・自動化・遠隔化などのデジタル化支援を行っています。
世界中でAI・ロボティクスの開発競争が一層激化をしていますが、多くの企業の現場を訪ねる中で、改めて再確認をしたことがあります。それは、多くの企業や従業員が当たり前に1つのことを懸命にやり続け、工夫や改善を継続する文化が存在し、現場に多くの暗黙知が宿る産業が数多く残されているということです。
この多くが、90年代の不動産バブル崩壊後の不況を経て、熟練者の退職や経営の縮小・統合により失われてきました。ところが近年、インターネット上には必ずしも流通していない、これらの「クローズド」なデータの質的な価値が、世界中のAI企業に再注目されつつあります。
AIはAIモデルと学習データの2つが必要で、前者はいわば車(体)で後者は燃料(食料)であり、前者に注目が集まりがちですが、現代のAIはインターネットまたはそのサービス上の「オープン」なデータ等を利用して徹底的にトレーニングされ、その汎用的な解析性能が飛躍的に高まりました。その次の段階として、業務に特化した(さらに現実世界で動く)AIを開発するための要素として改めて前述のクローズドデータが着目をされています。
日本の労働人口は急速に減少しており、地域の企業・経営者を訪問すると「海外からの人材を採用しながら何とか事業を維持してきたが、もう今までと同じオペレーションは組めない」という声を多く耳にします。これは長期トレンドで不可避ですから待ったなしで、あとはどうやるか。巨大資本を投下する米国のダイナミズム、これを真似ることも1つの道なのかもしれませんが、ほかに日本の特異性を活かした攻め方はないだろうか、それが叶えばこれまでの日本企業の蓄積や文化がそのまま競争力になるのではないか、そのように考えた結果として「暗黙知を吸収しやすいAI」の研究開発を加速させてきました。

―特にコンピュータビジョン(画像AI等)の技術は、具体的にどのように活用されているのでしょうか。
社会インフラの点検領域では電力や鉄道領域の大手企業(JR東日本やJR西日本等)、ものづくりの領域では自動車製造・食品等の幅広い企業と、遠隔監視や検査をテーマに協業を行ってきました。昨年からは東京都の再生エネルギーインフラの点検DX、今年からは新たにNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトや地域の産官学プロジェクト(愛媛県等)とのプロジェクトに参画し、インフラ強靭化やものづくりDXに取り組んでいます。
―加藤さんのキャリア、また経営チームについて伺えますか。
私の父は、製造・生産ライン自動化のインテグレータを自営業として営んでいました。小さな頃からおもちゃはドライバーやスパナで、父の仕事の手伝いもしていたことから、現場のオイルの匂いを嗅ぐと今も懐かしい気持ちになります。私自身、トラックの運転も父から仕込まれ、多少自信があります。その後、高専・大学・大学院で機械・流体力学・シミュレーション等を学び、新卒で入社した仏系企業では、グローバルのシミュレーションプロジェクトに従事しました。
弊社の技術を創ってきた宮田(CTO)とは2020年頃に出会い、その後はバディとして苦楽を共にしてきました。信頼が経営のスピードを決めますが、彼と私は、ともに汗をかき、同じ目線で楽しさ・辛さ・悲しさを経験してきたので、納得感と合理性のある意思決定がしやすいと感じていますし、これ自体も重要な経営資源であると認識しています。
また、彼と私の共通点は、なんといってもフットワークが軽く、作業着が実によく似合うということでしょう。特に宮田は、頭脳明晰なだけでなく現場に行くことを厭わずに、「技術は役に立ってこそ値打ちがある」ことを経験的に理解する、稀有な人材です。
まずはじめは、弊社のお客様になっていただけた瞬間です。創業時は当社の名前が知られているわけでもありませんから、何処の馬の骨かわからない人間が営業をするわけですから、胡散臭くてしょうがないわけです。当然、相手も訝しげな態度で接してくる方もおられるわけですが、発注をいただけたということは、会社の名前ではなく、自分たちの主張・コンセプト・製品・サービスを信用してくれたわけです。
次に、社内メンバーが充実感を得ている、その人の性格・能力が結果に直結している、私自身を含めて活性化している、と思える瞬間です。詳細は省きますが、学生の頃にひょんなことから、リーダーの役割を務めたことがあります。その時に、メンバー個々人が動く環境作りに集中をしたことで、メンバー個々人が自発的に動き始めることや、結果として想像もしていなかった結果を出すに至る体験しました。今にして思えば、私の才覚があったわけではなく、はっきり言って偶然でしたが、この痛快な経験を今も追い求めているのだと思います。現実のビジネスはもっと複雑ですが、根本は同じです。人生の中で、こういった高揚感を得ることを望む方は、スタートアップという舞台に立つことをお勧めします。
―やりがいや喜びを感じた瞬間について教えてください。
まずはじめは、弊社のお客様になっていただけた瞬間です。創業時は当社の名前が知られているわけでもありませんから、何処の馬の骨かわからない人間が営業をするわけですから、胡散臭くてしょうがないわけです。当然、相手も訝しげな態度で接してくる方もおられるわけですが、発注をいただけたということは、会社の名前ではなく、自分たちの主張・コンセプト・製品・サービスを信用してくれたわけです。
次に、社内メンバーが充実感を得ている、その人の性格・能力が結果に直結している、私自身を含めて活性化している、と思える瞬間です。詳細は省きますが、学生の頃にひょんなことから、リーダーの役割を務めたことがあります。その時に、メンバー個々人が動く環境作りに集中をしたことで、メンバー個々人が自発的に動き始めることや、結果として想像もしていなかった結果を出すに至る体験しました。今にして思えば、私の才覚があったわけではなく、はっきり言って偶然でしたが、この痛快な経験を今も追い求めているのだと思います。現実のビジネスはもっと複雑ですが、根本は同じです。人生の中で、こういった高揚感を得ることを望む方は、スタートアップという舞台に立つことをお勧めします。
―港区のディープテックスタートアップのための実践的ビジネスアーキテクトプログラムにも採択されました。どんな活動をしていますか。
このプログラムは、各分野の講師が登壇し、その都度、個別メンタリングを行ってくださるというプログラムです。メンタリングでは、資本政策からアライアンス・法務まで、幅広くテーマが設定されています。日常業務で忙殺され、つい後回しにしてしまっているようなトピックについても、再考するきっかけをいただいています。
―プログラムで特に良かった点はありますか。
スタートアップの経営はパラメータ数が多く、また変化も激しいので、時事刻々と「最適化」をせねばなりません。ところが、激しく動揺する船に乗っているような状況ですから、冷静に考えることができる時間は限られています。そのときに、脳裏に浮かぶ要素・視点が何かが極めて重要で、浮かぶべき要素を網羅的に学ぶことができると思います。
―今後、どのようなことを港区のプログラムで学んでいきたいですか。
「経営者は孤独だ」とよく言われますが、これは事実です。この後登壇する事業家の方々は、領域は違っても経営者という立場は同じで、見える景色には近いものもあると思うので、どのような体験をシェアくださるのかとても楽しみにしています。

起業は「泥臭い営み」
困難を乗り越えた中で生まれる楽しさを糧に
―今後の会社や事業の展望を伺えますか。
日本にはかつて世界一だった産業が数多く眠っています。その産業や地場の企業に足を運んでいくと、「え、AI?なんでうちなの?他にもっと良い適用領域があるんじゃないの?」と驚かれることも間々あります。私は、こういう産業や企業にこそ、宝のような知恵の蓄積や暗黙知が眠っていると確信しています。またその価値は、世界の中での日本の立ち位置が大きく変わろうとしている現代で、さらに高まっていくでしょう。
―日々進化するAIの世界で、ご自身が心がけていることや、会社として大切にしていることはありますか。
抽象的・感覚的な話ですが、潮の流れが激しいときには、むやみに泳がないということを徹底していますね。AIはそういう状況だと思っています。タイミング悪く泳ぎすぎると体力を奪われるので、その場で冷静に浮いておくのもとても大事だと思っています。それは流され続けることを意味せず、必ずくる勝負どころで風林火山で勝負する、スタートアップはこれしかありません。
―これから起業したい人へのメッセージをお願いします。
起業は、非常に泥臭い営みの連続ですから、泥にまみれてみようかなという方にはとてもいいと思います。逆に、エリートのキャリアパスとして起業を選択すると、長続きしない可能性があると思います。私も大手企業にいましたが、大手とは使う頭や筋肉が全然違うので、「全部忘れてやるぞ」くらいの勢いや、自信に埋め込まれてきたさまざまな「あたりまえ」や常識を、すべて忘れることすら厭わないという思考もときに重要かなと思います。

記事投稿日:2025年12月22日


