X STAR株式会社
X STAR株式会社
マイカーリースバック
「クルマネー」で新市場を開拓
X STAR株式会社
CEO江崎 敦士

CEO
江崎 敦士さん/Atsushi Esaki
慶應義塾大学経済学部卒、Ecole Superieure de Commerce de Paris (現ESCP Business School) Concordia Program 終了。
住友商事に30年弱勤務し、主に自動車事業ならびにM&Aに従事。2000年に住友商事社内ベンチャーを立上げ、自動車関連eCommerce事業等のCEOを務める。2008年から2014年までタイで自動車・二輪車ファイナンス事業会社のCEOを務め、事業再建・拡大の指揮をとる。
住友商事の後、スポーツテックの世界大手Deltatre(イタリア)の東アジア代表、Allianz Group (ドイツ)日本法人のCSO (Chief Sales Officer)、データサイエンス&AIのスタートアップPeopleDot (旧社名Datamix)のExecutive Fellowを務め、データサイエンス&AIの知識・経験を基に経営を行ってきた。
マイカーリースバック「クルマネー」で
新市場を開拓
―「X STAR」では、どのような事業を展開していますか。
当社では「クルマネー」という、日本ではユニークなマイカーリースバックのサービスを提供しています。これはお客様が当社に車を売ることでまとまったおカネを得た後、その愛車をリース契約する形でそのまま乗り続けられるという仕組みです。
お客様はカードキャッシングや消費者金融で借りることができますが、何かの事情でそれが出来なくてまとまったお金を必要とする時や、クルマを売ればまとまったお金は手に入るけど一方でクルマもどうしても必要という方に、マイカーリースバックがお役に立てます。
この仕組みは、アメリカや中国ではタイトルリーシングというサービス名で普及していて、オートファイナンス市場の約10%のシェアがあると言われています。ただ今のところ、日本にはこのビジネスの競合他社はほとんどいません。
―お客様のニーズとしては、どのようなものが多いのでしょうか。
お客様は30~50代の男性が多いです。資金ニーズは入院費用・介護費用・生活資金・事業資金と様々です。季節性もあり3~4月に多かったのは子どもの教育資金で、学校の授業料、塾代、教材費、部活費用などに充てるというケースが目立ちました。6~7月は夏休みの費用や結婚式費用というケースもありました。
―ほかの金融サービスと比べた魅力はなんでしょうか。
おカネを借りるという事では前述のカードキャッシングや消費者金融の方がより迅速で簡単かもしれません。またクルマを買取店に売ればまとまったおカネを手にする事が出来ます。当社のクルマネーの魅力はやはり“まとまったおカネをクルマに乗りながら手に入れられる”という事が挙げられます。またお申込からおカネのお振込みまで原則すべてネット対応しているので、24時間365日、全国どこからでも申込できるのも魅力です。
お客様が希望されれば、リース期間の終了後に買い戻しができるのも特徴の1つです。
―現在、貴社の事業規模はどれくらいになっていますか。
2025年1月にサービスを開始して、10月時点では累計申込数が3000件を達成しました。リース料総額も数億円規模に成長してきています。
サービスは離島を除く日本全国で展開していて、おかげさまで47都道府県のお客様からご契約をいただいています。
―会社設立の経緯について教えてください。
当社の株主はシンガポールに拠点を持っており、その100%子会社として日本法人を設立しました。海外でもマイカーリースバックやオートファイナンス事業を展開しているノンバンクグループです。いわゆる外資ですが新規参入が難しいといわれる日本市場で成功するとグローバルでの認知や信頼感が高まると考え、日本にマイカーリースバックサービスでまず参入しました。
グループとしての設立は2014年とまだ歴史の浅いグループですが、オートファイナンスにテクノロジーを加え事業を展開するフィンテック企業です。テクノロジーでもAI活用を積極的に進めています。例えば与信判断や、カスタマーサポート分野ではAIを積極的に活用しています。グループとしてはファイナンス業界内でもかなりAIへの取り組みの姿勢が高く、その強みを活かして日本市場に参入したいと考えました。
日本市場はさまざまな規制や独特の商慣習があり、新規参入が大変です。そこでグローバルとでのテクノロジーの力と、ローカルの経験で粘り強く事業を続けて成功できればと考えています。
―2023年の設立後、うまくいったこと、大変だったことはそれぞれ何でしょうか。
個人向けのリースバックサービス市場が実質日本には無かった事から、正直なところ当初は市場にニーズがあるか、私もやや疑心暗鬼でした。でも実際に2025年1月からサービスを開始して契約台数も伸びてきた事から、当社のマイカーリースバックを求めているお客様がいるのがわかり、これは良かったことでもあり嬉しかったです。
一方でやはり大変だと思うのは、人の採用ですね。マイカーリースバックサービスが日本にない事から経験者もいません。オートファイナンスもわかりテクノロジーも理解できる人もそう多くはありません。AIを活用する当社ですが、最終的には人が大事です。私が入社した時は4人しか在籍していなかった会社が、今では約40人規模になっています。人の採用はそう簡単ではないですがご縁がある方が集まりこの規模になりました。
会社として信頼を得ていくことも大変でもあり課題です。私がかつて住友商事にいた時は、「住友商事とはビジネスできないよ」と言われたことはありませんでした。でも当社は設立まもない新しい会社で取引開始するのも一苦労です。会社の知名度、信用力や実績がまだない中で、「この会社と取引していいのか」と懸念を持たれることがないわけではありません。ただ最後は信頼頂いてお蔭様で多くのビジネスパートナーの方々に助けて頂いています。
―そうした中で、会社の信用性をどうやって高めてきましたか。
出来る事をしてきました。まずブランディングが重要できちんとした会社であると示すために会社のホームページを作成し、会社概要や実際の経営陣の紹介(プロファイルと顔写真)をしています。
知名度のあるオフィスビルに本社を構えるのも重要だと思っています。名刺を渡した時に相手からは、どこにオフィスがあるのかをパッと見られます。当社のオフィスがある港区や森ビルは、圧倒的にブランド力が高いです。我々は実績のない新しい会社なので、森ビルと契約をするのはかなり大変でしたが、なんとか契約し入居させていただきました。
それから信用力のある会社と取引をしていることも大事だと考えています。三井住友銀行さんに口座を開設し、電通やヤマダデンキといったビッグネームと取引をさせて頂いています。そういう積み上げをしながら、ブランド力や信用力を高める努力をしています。

自動車とデータを核にキャリアを構築
グローバルな知見を培う
―江崎さんのキャリアについて教えてください。
私は住友商事に約30年在籍していました。ずっと自動車部門です。最初は乗用車・トラック・バイクの海外輸出を担当し、フランスに留学した後は、アフリカのフランス語圏の国に駐在して近隣13か国での営業をしていました。日本に帰国後、ヨーロッパ向けの輸出営業を担い、その後2年間、カメルーンで三菱自動車の100%子会社の支店長や副社長を務めました。
2000年代には、社内の仲間5人と社内ベンチャーを立ち上げました。ここでは自動車関連eコマース事業を始めました。そして2008年からはタイで自動車販売金融会社の経営に携わりました。事業を良くするためにその時使った手法が、今X STARでやっていることと同じ、データサイエンスです。
消費者向け金融では、お客様の属性や行動データが大量に蓄積されています。タイの大学教授やデータサイエンティストと一緒にそのデータを整備・分析し、分析結果をビジネス判断等に活用したら、劇的に業績が回復しました。取り組んだのは、まずオペレーションをデータで可視化することです。売れていない地域や延滞が多い地域などを可視化しました。また与信でも過去のお客様データと債権の質の相関を見てスコアリングモデルを開発し業績が向上したので、やはりデータは楽しかったですね。
自動車ファイナンスや消費者金融についても、初心者で全く分からなかったのでいろいろと勉強しましたが、これが面白かったですね。
―その後のキャリアの変遷について教えてください。
その後は東京2020になんかの形で関わりたいとの気持ちがあり、ご縁がありイタリアのスポーツテックDeltatre (デルタトレ)の東アジア代表を務めました。オリンピックやサッカーのワールドカップ、プレミアリーグやJリーグなどのデジタルサービスプロバイダーです。東京大会の後Allianz Group (アリアンツグループ)というヨーロッパ最大の保険サービス会社の日本法人にCSO(Chief Sales Officer)として転職しました。
ただ、私自身データサイエンスの知識が足りないと思い、データミックス(現:ピープルドット) という会社のデータサイエンティスト養成講座を受け、事業開発をしないかと誘われて転職することになりました。さらにその後、X STARから声がかかり、代表となったという経緯です。
基本的には自動車とデータ分野を渡り歩いてきたキャリアですね。
―自動車関連のお仕事の魅力をどんなところに感じましたか。
私は自動車事業にずっと携わってきましたが、最初は車にそんなに興味はなかったです。ただありがたかったのは、当時の日本の自動車メーカーが世界で一番だったことで海外でも売りやすかったですし、売る事に誇りも感じていました。当然そこで働いている方々も世界で優秀な人たちでレベルの高い環境で仕事ができたのはありがたかったと思います。
同じ自動車でもいろんなビジネスモデルを経験できたことも良かったです。商社特有の人事ローテーションですが、輸出、輸入、販売代理店、販売金融とどんどん担当する分野が変わっていきました。
当時は「商社不要論」や「商社冬の時代」と言われている中で、存在意義を出せる部分を探してどんどん事業の川下にいきビジネスチャンスがあるところで事業をしてきた感覚です。ただ当然その分野のプロを育成しないといけない中で育てられてキャリアを積んできました。
―キャリアの軸は何だったのでしょうか。
好奇心を持って挑戦ができる分野なのか、そしてデータドリブン経営ができるかどうかという部分ですね。
―X STARで、これまでのキャリアが役立ったと思うことはありますか。
大きく2つあります。1つは自動車ビジネスに関する知識です。
自動車には、一般の方に馴染みのある商品ではありますが、細かいところでは分かりづらい点がたくさんあります。例えば自動車「型式」ですね。 当社では車の価格査定をするため、より正確な車両情報を取得・入力して価格を算出します。メーカー名は馴染みがあるので誰でも知っていますが、モデル名やモデルグレード等はやや認識があやふやで、その情報をどう正確にお客様から取得するかが大事で、過去の経験が活きています。
また自動車業界にはメーカー、自動車販売店、整備工場・板金工場、自動車保険会社など、多くのプレイヤーがいて、それぞれに特徴があります。そういった業界の方々とお付き合いさせて頂く上で過去の経験が活きていると思います。
もう1つは、データサイエンスやAIに関する知識とビジネスで活かした経験です。AIにできること、できないことは何か、AIを使うためには何を準備したらいいか、といった土地勘を持てている事は、ビジネスを進めていく上で、助かっていますね。
―X STARを経営するなかで特にやりがいを感じるのは、どのような時ですか。
X STARでは、グループのカルチャーとしてスピードを求められます。私は、日本の大企業やスタートアップ、外資ではイタリアやドイツの会社にも在籍していましたが、当社は比較にならないぐらい経営判断や決めた事の実装が速いですね。とにかく挑戦し続け、動き続けなければいけない環境です。
もちろん失敗する事もありますが、失敗から学びなぜ間違ったのか分析した上で、常に挑戦し続けています。逆に失敗を咎められる事より挑戦しない事は怒られます。そのカルチャーはすごいと思いますし、やりがいがあります。スタートアップなので制度が整っていないなど大変な面もありますが、それでも挑戦できる環境があり挑戦を奨励されている事は社員にとっても大きな価値だと思っています。
私は1990年に社会人となりましたが、それからの30年超は“失われてxx年”と言われた時代でした。例えばGDPは世界2位でしたが、今は5位です。企業の時価総額も、90年代には世界トップ10に日本の企業が7~8社入っていたのに、今は1社も入っていません。強かった日本車のシェアもじわじわとシェアを落としています。
私のキャリアは、Japan as No.1と呼ばれた時代から今に至る歴史でもあります。その中で改めてエマージングな環境の外資にいる中で感じたのは、スピード感を持ってビジネスを進めていく事とチャレンジングスピリットが大事だということです。それができるX STARで働くことには、大きなやりがいを感じますね。
―具体的にX STARでスピード感をもって物事を進めているエピソードはありますか。
当社では、例えば「来週やります」「今月中にはやります」という答えを出した瞬間に、「今日中に」などとバサッと返されます。開発でも、どれくらいの日数がかかるか聞いて、「だいたい2週間」と言うと「ChatGPTにプログラムを書かせたら10秒でしょう」と返ってくるようなやり取りは、日々当たり前にあります。
―スピードが速いからこそのやりがいや、逆に大変だったことはありますか。
車に例えて言うと、高速道路を200kmで飛ばしながらタイヤ交換やオイル交換をしないといけないようなケースが多くあることです。
ただ一方で、スピードを重視しすぎてお客様にご迷惑をかけてはいけないので、抜け漏れがないかはきちんと確認しながら業務をしています。例えば、何かおかしなことが出ている時には気づくようにしていますね。今のオフィスに引っ越してくる前、私たちは新橋の駅前の雑居ビルの1部屋に入居していて、私もお客様からのお問合せ電話を受けていました。周囲の声を聞いていて、2〜3分で対応が終わっていれば問題なさそうだと分かりますが、15分以上話している場合は、何かがおかしいわけです。そういう時には対応した社員に状況を確認するようにしていました。
グローバル市場を見据え、
スケール大きく挑もう
―採用ではどのような点を重視していますか。
当社は数人の大学新卒社員を除き全員中途採用の社員です。また国籍も多岐にわたり社内では様々な言葉が飛び交っています。共通言語は英語といった環境です。育ってきた環境や文化も、社会人としての価値観もバラバラです。例えばどの国や会社のやり方が良いという議論をすると優劣をつけなくてはいけません。故に会社としてのミッションとビジョンをきちんと言語化して、それに共感していただける方に仲間になってほしいと考えています。採用面接や入社後のオリエンテーションでは当社のバリューを丁寧に説明するようにしています。
採用ではないですが、日常の業務では言葉の意味・定義を明確にすることを大切にしています。具体的にはガイドブックを作成し、専門用語の定義やデータの取り方、計算方法を徹底してメンバーと共有しています。人によって言葉の解釈が違うことがあるのはよく分かっていたので、会社として1つのゴールを目指すため、定義を明確にしています。そして大切なのは目の前の課題や目標は何か、それに対して何をするのがいいのか議論することを心がけています。
―会社の今後の展望を教えてください。
当社は「お客様の困りごとを徹底的に解決する」というバリューを掲げています。マイカーリースバックというサービスのニーズがあると分かったので、より多くのお客様により簡便に使って頂けるようにしたいです。例えば、どれだけ短時間で申し込みが完結するのか、お客様のお問い合わせやお困りごとにどれだけ分かりやすく対応できるかといった点について、AIを活用しながら改善していきたいと思います。
―数値的な目標はありますか。
「今、月間で獲得している契約件数を1日で獲得する」という目標があります。できると思って取り組んでいますが、どのくらいの時間軸で達成していくかが問題です。極論で言えば、やろうと思えばやれますが、そこにサービスの品質もついていかないといけないといけません。
私はなんだかんだ言っても自動車業界の人間です。自動車は、命の安全が絶対で、車両に不具合があるまま販売を開始する事はありません。これまでもより高い製品水準・サービス水準となってから市場で販売やサービスを提供してきました。一方ITの世界は完成度が80~90%であればサービスインして、不具合(バグ)を走りながら修正させていく世界です。また日本のお客様が要求するサービス水準は世界一で、日本でビジネスを行う以上高いサービス・製品水準にしていかないと、事業が永続しないと思っています。
そういう意味では、当社も120%を求めるのは行き過ぎですが、それでもある程度の業務品質やサービス品質が追いつかないといけないと思っています。そのための採用やトレーニング、スタッフの意識向上には、きちんと取り組んでいきたいと思っています。
―起業を考えている人に向けて、メッセージをお願いします。
昨年、シリコンバレーでスタートアップと投資家とのマッチアップの為のピッチイベントに参加して、「こんなテーマで起業するのか」と驚きました。また私より年上のシニアの方も相当気軽に起業しているのですよね。起業を考えている人は、興味がある分野や、解決したい課題があれば、チャレンジするといいのではないかと思います。
私は社内ベンチャーも経験しています。起業を社内ベンチャーとしてやるのと、独立して実行するのはプロコン(良い点と悪い点)があって一概にどっちがいいかというのは難しいですが、興味を持ち挑戦し続ける事は大事かと思います。
また日本と海外のスタートアップを両方見ましたが、得てして海外の人たちはグローバルでの事業展開を視野に入れているので、成功した後のスケールアップも大きい印象です。日本企業の多くは国内を対象としていて、少しスケールが小さい感があります。決してそれが悪いわけではないですが、やはりグローバルで展開できるイメージを持てるといいと思います。
グローバルと言っても漠然としているので、せめて日本プラス数カ国の市場、例えばアジアや中国、アメリカは見ていた方がいいのではないかと思います。そうしないと成長がどこかで止まると思いますね。

記事投稿日:2025年12月24日



