株式会社ワイバーン
株式会社ワイバーン
薄膜シートヒーターで
カーボンニュートラルに貢献
株式会社ワイバーン
代表取締役柳沢 徳久さん
代表取締役
柳沢 徳久さん/Naruhisa Yanagisawa
■経歴
大学で工学部(光学工学科)を専攻し、卒業後に専門商社(情報処理/画像解析関連)に入社。そこで数年間の実務経験を積み、さまざまな業界の企業戦略や事業再生プロジェクトに従事。
その後、1982年に設立された株式会社ワイバーンに参画し、事業戦略を最大限に活用して企業の成長を牽引。持続可能な開発目標(SDGs)に掲げ、2050年までにグローバルなグリーンエコノミーを実現するための具体的な取り組みを進めている。
製品サイト:【HeatFlux】薄膜シートヒーターシステム & 電磁波シールド特性
伝導効率良く発熱し、省エネに大きく効果
薄膜シートヒーターの実用化を目指す
―ワイバーン様は、「HeatFlux」(ヒートフラックス)という薄膜シートヒーターの実用化を目指していますね。これはどういったものですか。
ステンレスの特殊なメッシュ状になっている、40μmの超薄型シートに電気を流すことで、薄膜シートを発熱させるというもので、薄膜シートは導電効率、熱伝導効率が良いことが特徴です。ティッシュ紙のような薄さで曲げたり折ったりもできるうえ、温度ムラが少なく均一に発熱します。
素材は上場企業の開発品で、弊社はその薄膜シートに電気を流して発熱させ、温度を調節するアプリケーションシステムを開発しました。
―システムの特徴はどこにあるのでしょうか。
【HeatFlux】薄膜シートヒーターはBluetooth通信でスマートフォンとつながっているため、温度を1℃単位で設定し、【HeatFlux】の温度データをスマートフォンの画面で温度状況を見ることができます。従来のニクロム線ヒーターと異なり、【HeatFlux】は、昇温速度は1秒当たり1℃以上なため非常に早く、温度センサーでコントロールしていますので簡単に温度調整が可能です、60Wで120℃まで発熱します。100Wの電力を使った場合は最大170℃まで温度を上げることもできます。
入力電源はUSB-Cケーブルを使用するため、モバイルバッテリーでも使え、電源のない場所での活用も想定されています。好きな時間でON/OFFが可能なタイマー機能も搭載しています。
―省エネ効果もあるそうですね。
はい。実験の結果、たとえば、既存品のヒーターなら20℃上昇させるのに6.2Wの電力が必要なところ、「HeatFlux」なら4.3Wで済むので、31%の省エネ率となることがわかりました。温度が高ければ高いほど省エネ効果は高く、最大で50%ほど使用電力を抑えられます。
これまで、一般的な照明をLEDにして消費電力を下げたり、車をハイブリッドEV車にして排気ガスを減らしたりというイノベーションは生まれてきましたが、熱に関しては大きく消費電力を下げるための発明はほぼありませんでした。 そういった意味でも「HeatFlux」は新しい観点からカーボンニュートラルに貢献できますし、電力価格が高騰する今、注目していただけると思っています。
―「HeatFlux」が実用化されたら、どんな場面で活用できそうでしょうか。
たとえば、40度の寝袋に湯たんぽの代わりに「HeatFlux」を入れておけば、一晩中使ってもずっと暖かいままです。さらに、ずっと40度を続けるのではなく、少しぬるくなったり、また暖かくなったりと、人間に優しい設定にもできます。しかも10時間使用しても7000ミリアンペアアワー(mAh)の電気を消費しません。
このように「HeatFlux」を防災用備品や住宅関連設備、家電用品、寝袋、バッテリーウォーマーなど様々なものに活用できるのではないかと思っています。料理の配達、給食のカートなどにも使っても、温かいまま料理を運ぶことができ、生活の質が上がりそうです。 発想さえ変えれば、熱はいろんな場面で生かせると思います。将来的には、ヒーターのデータの管理や活用もしたいと思っていますし、AI機能も追加していきたいですね。240Wの電流も流せるように準備しています。
―この薄膜シートには、電磁波を遮断する効果もあるそうですね。
金属のメッシュ構造を生かし、10MHz~110GHzの電磁波を遮断できます。身近なところでは、家電製品に取り付けることで、人体への悪影響もあるとされる電磁波を遮断することが可能になります。鉄道がカーブするところの周辺でも電磁波が出やすいとされており、そういった場所に防護壁を取り付けるという活用法もありそうです。
シェアオフィス「CIC Tokyo」への入居で
ビジネスチャンスが広がった
―どのようなきっかけで、この素材に出会ったのですか。
2019年ごろ、知り合いづてに「とてもいい機能を持っているのに、うまくプレゼンテーションできていなくて、他の企業から相手にされていない素材がある」と聞きました。 素材を作る企業は、素材作りには長けていても、その実用化や、製品化に向けたアピールが苦手なところも多いです。そこで、弊社がこの素材を実用化していくためのシステム開発をすることになりました。
ただ、「HeatFlux」を研究開発する最初の段階では、コロナ禍で製造ラインが止まって開発を受け入れてもらえなかったり、半導体が手に入らなかったりして、1年間何も動けませんでした。ほぼ自己資金で動いていたため、この3年間は地獄のように感じました。ようやく2023年初めごろにシステムの開発が完了し、その後は脱炭素やものづくりをテーマにした展示会に出展し始めました。このシートが均一に発熱できることや、曲げたり折ったりすることも自在だということを実演したら、多くの方に興味を持っていただけて、700社もの企業の方が名刺を置いて行ってくださいました。普通、名刺を置いていただけるのは良くても100社くらいだそうで、あまり例のないことのようでした。
―そこからは事業がうまく進んでいますか。
いえ、まだまだです。社員が面白いと感じ、一緒に製品開発をしたいと言ってくれても、コロナ禍で予算がなかったり、上司からの決裁が下りなかったりということの繰り返しでした。やはり数百万円単位の開発費用を出していただくことは簡単ではありません。 ただ、今年2月にスタートアップ向けシェアオフィス「CIC Tokyo」(港区虎ノ門)に入居してからは、様々な方と打ち合わせをしたり、人を紹介していただいたりしています。まだ売上はあまり立っていませんが、前に進んでいる感触は得られています。
―これまでにたとえば、どんな方々と話をしてきましたか。
珍しいところでは、航空幕僚監部がスタートアップの技術やノウハウを活用しようとCICのシェアオフィスに入居しているのですが、その方々とお話しました。 私からは、このシートを使えば幅広い周波数の電磁波を遮断できるので、人工衛星を覆って衛星の機器やデータを守ることに活用できるのではないかという提案をしました。 そのほかにも、宇宙は温度が低い時間帯もあるので、少ない電力ですぐに温度を上げられる「HeatFlux」を活用できるのではないかと思っています。 航空幕僚監部からは、実証実験も視野に入れて、活用に向けた検討を進めていくと言っていただきました。
他のベンチャー企業とも積極的に交流
長期的な目で「種植え」を
―CICではどんな交流を心掛けていますか。
毎週開かれるイベントに参加して名刺交換するなど、自分からアピールするようにしています。それまでは閉ざされた空間(賃貸事務所)で仕事をしていたのですが、350社ほどのスタートアップなどが入居する施設に入ったことで、人脈は各段に広がりました。ただ、これまで様々な方と名刺交換してお話してきた経験も踏まえ、今はやみくもに名刺交換するというよりも、興味を持ってくれそうな方としっかり話すようにしています。展示会だと終わってからメールや電話をしても、あまり話が前に進まず、それっきりということがほとんどですが、CICに入居している方は、より具体的にビジネスとして話を進めていこうとするのを感じます。
―CICに入居して良かったですか。
シェアオフィスの経験がなかったため入居する際には迷いましたが、自分と同じような感覚やスピード感でビジネスをしている人が多く、入って正解だったと思っています。もちろん、交流してもすぐに仕事につながるとは限りません。ただ、イノベーションに向けた熱量や発想が似ていて「事業をしたい」「新しいことをしたい」と思っている人が多いので、そのうち何かのチャンスにつながるのではないでしょうか。ここでの交流は、半年後や1年後に向けた「種植え」だと思っています。
また、CICに入居していることで、市町村のアクセラレーションプログラムへのエントリーもしやすくなりました。今年12月には、CICの推薦をいただいてアジア最大級のオープンイノベーションサミット「INNOVATION LEADERS SUMMIT2024」にも参加することになりました。
「第2創業」を掲げて
薄膜ヒートシーターに注力
―これまでのキャリアを教えてください。
大学では工学部で画像処理を学びました。その専門を生かし、大学卒業後は専門商社で、ビールの醸造タンクの中に水中カメラを入れ、発酵する泡の状態を画像解析するといった仕事をしていました。専門商社に5年間ほど勤めた後、私の父が経営していた旅行業の会社を引き継ぎました。 この会社では、旅行業のほか、筑波大学と共同で藻類バイオプラントを設計したり、高度医療機器をアジア諸国に販売したりと、様々な事業を展開していました。「何が専門ですか」と聞かれることもありますが、私自身はコーディネーションが得意だと思っています。
―2023年に「第2創業」を掲げ、「HeatFlux」に注力するようになりました。
これまで展開してきた事業はストップさせたり売却したりして、今は「HeatFlux」一本に集中し、全く新しい会社になった感覚です。 今はまだ自己資金で事業を進めていることもあり、手探りの部分も多いです。従来のニクロム線ヒーターが安いので、「HeatFlux」は相対的に高く感じられてしまうという課題もあります。
ただ、国は2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、企業に対しても、企業活動に関わる全ての温室効果ガス排出量の削減を呼び掛けています。「HeatFlux」は電気代が従来の製品よりも30~50%下がるので、企業にはぜひ、高くても購入していただきたいと思っています。
―今後の展開についてはどうお考えですか。
2026年秋には新しい生産ラインができる予定なので、いよいよ本格的に展開をしていけそうです。2027年度には海外への輸出も始めたいです。今は技術検証の段階で、ほとんど売上は立っていませんが、2026年度には5億円以上、2030年度には約30億円を売り上げることを目標にしています。 試作や検証には1年以上かかりますし、どのような価格設定にするか、どのような商品に活用できるか、今から準備を進めています。
頭の中の引き出し同士を結びつけ、
やりたいことを実現
―会社として大切にしている理念を教えてください。
「道のないところに、道を創る」を基本理念として、未知の領域であっても広い視野で幅広く目標をとらえ、事業戦略の提案・実行の面で結果を出していきたいと考えています。
具体的な業務の方針としては「社会・地域・取引先との相好関係を重視し、事業の方針策定を推進する」「これまでの経験を最大限に活かした積極的な事業戦略を提案し、成果に結びつける」「持続可能な開発目標(SDGs)に取り組み、次世代への住みやすい環境づくりを行う」の3点を掲げています。 こうした方針に基づき、「HeatFlux」を通じてカーボンニュートラルの実現に貢献できるよう、日々試行錯誤を続けています。
―起業を考えている方へのメッセージをお願いします。
私自身も大事にしていることですが、諦めないこと、希望を持つことです。目標を持ってトライをしても、資金繰りが思うようにいかないなど、小さな挫折はたくさんありますよね。 そしてものづくりをする方に関して言えば、基礎を知ることが大切です。なんでもデジタル化されていて、プログラムを作る際もパッケージ化されているものに当てはめていくようになっている現在ですが、ものづくりがどのようにされているのかというアナログの基礎を知ったうえでデジタルを知るということを心掛けてほしいと思います。そのうえで「こんなものを作って売れたらいいな」という諦めない追求心を持って、挑戦し続けてほしいです。
―諦めず、希望を持つために柳澤さんが心掛けてきたことはありますか。
常に自分の中で発想を持って、なぜその発想が出てきたのか、なぜそれをしたいのかを考えるようにしていました。そして、とりあえずトライしてきました。そのときに必要なのは、頭の中にいろんな引き出しがあることです。頭の中のあらゆる引き出しを出しては閉め、出しては閉め、を繰り返すと、引き出しの中同士にまさかのつながりがあり、自分がやりたいことが実現できることがあります。
記事投稿日:2025年1月21日