株式会社TRiCERA

株式会社TRiCERA
世界中にアートを届け、アーティストを支援する。

井口 泰さん

株式会社TRiCERA
代表取締役CEO井口 泰さん

グローバル・アート・マーケットプレイスの運営

 

株式会社TRiCERA

代表取締役CEO 井口 泰さん

[プロフィール]
大学卒業後、老舗音響機器製造業に入社、アジアパシフィック統括本部にてキャリアをスタートする。ドイツ最大手医療機器メーカーに転職、医療機器の受発注に従事、プロジェクトリードとしてシステム導入に尽力する。2015年、世界最大手スポーツカンパニーに入社。2017年には日本の直営店舗サプライチェーンを統括するマネージャーとなり、グローバルプロジェクトに参画、日本国内においても複数の新規プロジェクトを立ち上げ実行する。2018年11月1日、株式会社TRiCERAを設立。

 

世界中のアート作品をオンラインで販売。

 
TRiCERA (トライセラ)の事業の根幹は、「TRiCERA ART(トライセラアート)」というグローバル・アート・マーケット・プレイスです。
オンラインで世界中のアーティストが自由に作品を出品し、そこで認知や作品の販売を行うことができます。かつ、世界中のお客様がオンラインでアート作品を購入できます。2022年現在、「世界 126 カ国以上の絵画・写真・彫刻などのアート作品約67,000点を取り扱い、今は特に、現代アートの分野が充実しています。

 
アーティストには、オンライン出品機能のほか、弊社のメディアサイトでアーティストや作品をご紹介するなど、さまざまなプロモーションの機会をご提供します。
また、オフラインの展示会やアートフェアを行い、お客様が直接アートに触れることができる機会もつくっています。

 
世界のお客様に閲覧していただくために、作品説明は8言語に対応。海外のアーティストやお客様とのコミュニケーションは基本的に英語対応というカスタマーサービス等、これまでアート業界では注目されていなかった部分に力を入れています。
デジタル作品もありますが、99%は物理的な作品を取り扱っていますので、世界中に配送可能な物流ネットワークを構築していることも強みです。

 

 

アーティストのキャリア形成支援のために。

アート作品を全世界へと届ける仕組みをつくり上げると同時に大切にしているのが、アーティストのキャリア形成サポートです。

 

アーティストがキャリア形成をしていくうえで必要なことはさまざまありますが、マーケティングでよく言われる認知獲得は、容易なことではありません。
活動するにも、展示を行うにもアーティスト自身がお金をかけて行っています。そこに対してオンラインを利用して認知を拡大し、キャリア形成を行えるようサポートしています。
 
また、キャリア形成をしていくうえでアートファン、コレクターを増やすことも重要です。
例えば、東京在住のアーティストのファンが北海道や海外にいる場合でも、きちんと作品を届ける仕組みがあれば、活動場所に関わらず、より多くのファンに作品を届けることができます。そこからまた、枝葉のようにファンの広がりをつくっていける、そのようなプラットフォームを目指しています。

 
アーティストにさまざまな選択肢をもっていただくことが必要です。展示会やアートフェアの開催はもちろん、グッズ販売や企業とのタイアップなどでもマネタイズできるよう、キャリア形成のマネージメントに注力しています。
TRiCERAが、アーティスト活動の最初のステップとなり、キャリア形成をしていくうえで一緒に並走できるような存在になりたいと考えています。

 

アート作品の流通を変え、アート業界に変化を。

私が今のビジネスモデルを発想したのは、これまでのキャリアが関わっています。
大学卒業後、オーディオ機器会社のアジアパシフィック統括部門からスタートし、その後ドイツの医療機器メーカーへ転職、そして前職のナイキへ入社、と海外と関わることが多かったんです。

そのようなキャリアのなかで、サプライチェーンとよばれる領域に関わっていました。
サプライチェーンは、広い意味で使われますが、例えば部品の収集、サプライヤーへの発注、生産、ロジスティックス、デリバリーなどです。
これをどのように最適化し、シームレスにつないでいくか、ということをメインにキャリアを積んできました。

 
ナイキ在職中に「ネクストジェネレーションネットワーク」という次世代幹部候補の育成プログラムに選ばれたとき、ナイキの本社があるアメリカのポートランドへ滞在したんです。
ポートランドは美術館も多い文化の街。あるアートの展示会を訪れた時、国別に作品が展示され、日本の作品として展示されていたのは北斎でした。
その時に「世界から見ると日本のアートはこういうイメージなんだ」と感じると同時に、なぜ日本の現代アートがここにはないのか、この流通をもっと変えることができるのではないか、と思いました。

 
アート作品の流通を最適化し、作品が購入されてお客様に届くまでの仕組みをつくる、そうすることで、アーティストを支援し、アート業界を含めて変えることができるのではないか。そう考えたのが今のビジネスモデルとサービスが生まれたきっかけです。
 
この時ヒントにしたのは、Farfetch(ファーフェッチ)というイギリスのファッションECサイトのビジネスモデルです。
ファーフェッチは、世界中の高級セレクトショップやハイブランドのアイテムを、オンラインで世界中に売る、当時新しいビジネスモデルで、これをアートでも使えるのでは、と思いました。

 
私は物流のほか、システムインテグレーションにも関わっていましたので、アートのマーケットプレイスが実現すれば、世界中の人にアート作品を買ってもらえると考えました。

 

挑戦する人をサポートし、自らも挑戦し続けたい。

なぜアートからビジネスモデルを発想したかについては、子どもの頃から芸事が身近で、そして挫折した経験があったからだと思います。
 
私は、小学校高学年〜中学生くらいまで芸能界で子役をしていました。そこですごい才能に出会い、挫折したんです。やはり芸事の世界は厳しく、常に上には上がいます。
私は表現者であることが好きでしたが挫折を経験しました。だからこそ、表現者であるアーティストをサポートする方法はないだろうか、と模索していたという背景もあります。

 

もうひとつ大きなきっかけは、第一子が生まれたことですね。出産に立ち会った際、将来どんな自分の姿を子どもに見せたいかな、と考えました。
ナイキは超巨大グローバル企業であり、もちろんそこでもチャレンジできますが、自分の人生でもっと挑戦したいと、その姿を子どもに見せ続けることができたら、とても価値があることではないかと思いました。

 
マイケルジョーダンの大好きな名言があって、
「失敗は受け入れることができるが、挑戦をしないことは受け入れられない。」
まさしくこれかな、と思います。
会社を設立して、もうすぐ4年になりますが、失敗ばかりです。でも失敗はいいのです。チャレンジしないということは、後退でしかない、これは自分の人生の哲学としてあります。

 

背水の陣でやりきる覚悟を決める。

ポートランドから帰ってきて、ナイキを退職しました。その3カ月後の2018年11月に株式会社TRiCERAを設立。「TRiCERA ART」のプラットフォームは2019年3月にローンチしました。
 
会社設立からローンチまでの約4カ月間は、全くゼロからのスタート。アート業界にコネクションもないなか、プラットフォームの仕組みづくり、アーティストを探すこと、物流、購入者獲得の戦略含めて、すべてを同時進行で行っていました。
 
創業時は私を含めて4人で神田の1畳ほどのシェアオフィスからスタートし、翌月には麹町の6畳のオフィスに移転。そこから8カ月ほどで港区に移りました。その後、設立から1年経たずに、「アートの会社としてアーティストと接するために3階建てのビルを借りてギャラリーをつくりました。
 
こうしたスピーディーな展開が可能だったのは、スタートアップとしては珍しく、最初の資金調達が借入れだったことです。政策金融公庫、保証協会など個人保証を含め、フルレバレッジで借入れしました。さらに翌年、VC(ベンチャーキャピタル)からの第三者割当増資で資金調達しました。
借入れって借金ですよね。もういろいろなところを巻き込んでいるので、最初から背水の陣という状況でしたが、やりきるためにはそれぐらいの覚悟が必要だと思っていましたね。
 

 

常にアーティストファーストで。

 
出品していただくアーティストに関しては、とにかく足を運んで、家まで伺って、口説くということを繰り返していました。
本当に情熱しかなかったので、アーティストからしたら「この人なんだろう?やけに熱いな」という感じだったのではないでしょうか(笑)。
当時はきちんとしたカタログもなく、仕組みにも穴がありましたが、それでも熱意は伝わって、最初の100名ぐらいを集めることができました。

 

その頃から今も変わらず、常に「アーティストファーストであるべき」と考えています。ビジネスとのバランスをとっていくことは必要ですが、本当のアーティストファーストとはどういうことかを、オペレーションを含め突き詰めて考えています。

 

当社の社員は9割がバイリンガルまたはトリリンガルなので、海外のアーティストとのコミュニケーションは英語で行っています。
グローバルスタンダードを理解している仕組みであるか、ということは大きいですね。ナイキ時代に感じていましたが、日本のスタンダードも独特なので、日本の方法を無理に通す必要もありません。さまざまな国や地域の方法がありますので、それを尊重します。

 
同時に、私たちTRiCERAとしてのスタンダードとは何か、に気づくことも大切です。そのうえでコミュニケーションをとることが重要だと思います。
 

 

企業としての姿勢を行動に表す

事業を続けるために、大切にしていることは大きく二つあります。
一つは、私たちの「創造力に国境なんてない」というビジョンのもと、自分自身にもリミットをかけたくないと考えています。
自分の限界を自分で決めてしまうことがありますよね。制限をもうけないという価値観や考え方を大事にして、周りの人の意識も変えていけるような存在になりたいです。
「Think bold」大きく考えていかないことには、成長はないと考えています。

 
二つ目に、私たちの成長は、アーティスト、株主、社員など多くのステークホルダーの協力があってこそだということです。
TRiCERAをひとつの大きな船として、皆様と力を合わせてどのように進み成長させていくのか。私は船長として舵をきり、船に乗る全員が同じ方向を向き、同じ価値感をもってビジョンに向かって進んでいくことを大事にしていきたいです。

 
この価値観を共有するためにも、「企業は公器」と言うように、企業としての姿勢を実行し発信していくことが大切だと考えています。
例えば、2022年3月には「ウクライナ支援プロジェクト」として、ウクライナ在住のアーティストの作品が購入されたら、作品が届いていない状況でもすぐに売上の全額を送金しました。もし作品が届かない場合でも、お客様への返金はTRiCERAの負担としました。

 
私たちが行うすべては、企業の理念やビジョン、目指す世界に基づいていなければいけません。それを一番大切にして、これからも行動に移していきます。
 

 

起業を目指す方へのメッセージ。

自分がやりたいと思ったことに向かっていても、人生は、起業に関わらず心折れそうなことが何回もありますよね。
それでも、私はやりたいことをするための「覚悟」を大事にしています。

 
起業をして何をもって成功とするか、その尺度は人それぞれです。ですから、自分のノーススター、大切にしたい価値観は何か、を考えて起業の進め方を考えるのがいいと思います。
 
自分の創り出したい世界観、創りたいものを創ったらいいのです。最初から無理をする必要もないですし、資金調達や上場などは、それが必要であれば行えばいいのであって、必要がないなら関係ありません。
世の中の流れとして「起業=スタートアップ」というイメージがあるかもしれませんが、会社を急成長させて大きくすることだけが、起業の目的ではないと思います。

 
人間のからだは、ひとつだけしかありません。やりたいことが自分の人生において本当に価値あることなのか、よく考えることが大切だと思います。
その上で「やろう」となったら覚悟が決まりますし、きっとよい方向に進んでいけると思います。

 

TRiCERA ART : https://www.tricera.net/ja/

会社HP : https://tricera.co.jp/

 

記事投稿日:2022年9月30日