株式会社トランビ

株式会社トランビ
日本で会社を売る・買うという選択肢をもっと当たり前にしていく

高橋 聡さん

株式会社トランビ
取締役創業者高橋 聡さん

事業承継・M&Aプラットフォームサイトの運営

 

株式会社トランビ

取締役創業者 高橋 聡さん

So Takahashi

[プロフィール]
2001年 アクセンチュア株式会社入社。通信ハイテク本部にて、大規模システム開発プロジェクトに従事。
2005年 家業であるアスク工業株式会社に入社。
2010年 代表取締役(現任)。
2011年7月 日本初となる中小企業による中小企業のための事業承継・M&Aプラットフォーム「TRANBI(トランビ)」をスタート。
2016年 株式会社トランビ(当時は株式会社アストラッド)として分社化し、現在は取締役として経営に参画。

 

誰でもM&Aに挑戦できる仕組みを

インターネットを使って事業を売りたい人と買いたい人をマッチングする事業承継・M&Aプラットフォーム「TRANBI(トランビ)」の運営を事業としています。特長は、事業を売却したい売り手が情報をオンラインに掲載することで、全国、世界から買い手を募ることができるということ。
これまでのM&A業界は、“売り手が買い手を探しに行く”という仕組みでしたが、TRANBIでは、“買い手が売り手を探しにきてくれる”仕組みです。そのため、仲介型のM&Aと比較して売り手は圧倒的にコストが安く、多くの買い手と出会えます。
2022年9月現在、会員数は約11万名で、M&A案件を掲載していただくと1案件あたり平均12件買い手からのオファーが来る状況です。このプラットフォームを開始した10年前は、小規模のM&Aは少なく、見向きもされない状態でしたが、今は非常に多くの方に使っていただいています。

日本の企業数は約360万社あるといわれていますが、約半分は個人事業主です。そういった方々も、M&Aに挑戦できるようになってきました。最近では、サラリーマンの方が事業を買って独立するというケースも普通になってきました。

 

 

中小企業の事業承継に大きな危機感をもち起業

2011年にTRANBIをスタートしたときは、M&Aは大手企業が行うもので、私たちのような中小企業には手の届かない手段でした。私が長野で父の会社・アスク工業を継ぎ、製造業の会社の代表となって目の当たりにしたのが、取引先が毎年3〜5社廃業してしまうという状況でした。そのほとんどは後継者不在が原因です。製造業では、部品がひとつ欠けても製品を作れないことがあり、常に新しい取引先を開拓していました。しかし、それは大変手間がかかることでした。

 

なぜなら、30年ずっと一緒に仕事をしてきた取引先が廃業した場合、その会社が30年かけて作り込んできた品質を保ちながら、新しい取引先に依頼できるケースはそうないからです。非常に大きな危機感をもち、それなら私どもが廃業する会社を買いとれるように「M&Aで問題解決ができる仕組みを作れないか」という発想が生まれました。

 

中小企業も利用できるような料金体系にするため、インターネットを使ったM&Aの仕組みを考えはじめました。当時はM&Aというと「怖い」とか「失敗」とか「のっとり」など、非常にネガティブな印象をもたれていました。アメリカには、すでに売り手も買い手も利用できるM&Aのサブスクサービスがあり、日本もそうなったらいいなと考えていた一方で、まだ日本では無理なのか、でもやる意義はあると試行錯誤。そこで、アスク工業の一事業として、無償で始めることにしました。アスク工業で1社でも事業を買い、廃業していってしまう会社を引き継ぐことができれば、お互いにとっていいはずだ、と思ったのです。

 

「私たちも使いたいから、無料で使ってください」ということで生まれたM&Aマッチングサービスが、TRANBIです。M&Aに知見がある、共同創業者の山中健太郎(現代表取締役CEO)と2011年に開始しました。

 

長野から港区へ。全国のお客様や大企業とのつながりができる。

 

2011年にサービスがスタートしてから、5年ほどすると問い合わせが増え、いよいよベータ版という扱いから正式リリースして有償化しました。そのタイミングで2016年にアスク工業から分社化し、株式会社アストラッドとして東京に進出。
港区に移転して大きな変化がありました。
まず、人材面。当時、M&A、IT関係の人材を集めることが長野では難しく、港区でオフィスを構え社員を集めることができました。また、お問い合わせ件数が格段に増加。
2011年の事業スタート時はM&Aマッチングサービスを行う会社が「長野・会社名が工業・無料」であるという3点について、とにかく怪しがられてしまって(笑)。港区で看板がしっかりしたからかな、という印象がありました。大手企業からもお声かけをいただくようになり、そこから連携の話も増えました。港区に決めた理由は、東京駅や羽田空港に近いことも挙げられます。お客様は全国にいらっしゃるので、全国各地へのアクセスがよい、ということも決め手になりました。

 

 

事業承継問題の“負のイメージ”を“正のイメージ”へ

私たちは、M&Aのイメージを変えていかなければ、事業承継問題は解決されない、と考え「負のイメージから正のイメージへ切り替える」ために、とにかく成功事例を重ねることを大切にしています。

 

そして、その成功事例を、成約されたお客様によって、また、メディアなどで紹介していただき、「個人事業主でも事業承継できる」「小規模事業でも売れる」ということを理解していただくことが重要だと考えています。プラットフォーム上でも積極的に成功事例をご紹介しています。

 

事業承継が必要になるのは、後継者がいないというケースのほか、1番多いのが、経営者自身が燃え尽きてしまう、事業を伸ばすための施策が見つからなくなるなど、経営者が次の一手を打てなくなったというケースです。アメリカでも同様で、「バーンアウト」つまり「燃え尽きた」という理由が圧倒的に多いですね。日本の場合、そこに個人保証が紐づいてしまいます。資金を借りているから返済しなくてはならない。しかし、返済できないので経営は続けなくてはいけない、という「続けるか、破産するか」という選択肢になってしまうわけです。破産はできないので、やる気がないのに続けるしかない、そんな状況が多く見られます。

 

そこで、M&Aで事業を売却してお金にして、返済するという仕組みが活きてきます。廃業するとお金が出ていってしまいますが、事業を売ればお金が入ってきます。そのお金を使って、次の挑戦ができていいはずなんです。このような仕組みが成り立つと、売り手の数だけ挑戦者の数が増え、ぐるぐる回っていくとさらに多くの方が挑戦しやすくなる。セーフティネットのようなかたちで、選択肢が増えますよね。

日本で会社を売る・買う選択肢をもっと当たり前にしていく

スタートから10年経ち、M&Aプラットフォームが社会でも認知されてきたと感じています。中小企業白書や、M&Aガイドラインにもプラットフォーム活用について書かれていたり、行政との連携が図られるようになったり、環境が整いつつあります。当社も事業承継・引継ぎ支援センターと連携するM&Aプラットフォーマーに選定され、最近では2022年6月に大阪府と事業承継促進に向けた連携協定を締結しました。M&Aプラットフォームを活用して、府内事業者27万者の円滑な事業承継を促進、支援していきます。

 

しかし、年間5万社が廃業しているなかで、売れている会社は1万社に満たない状況、つまり8割は廃業しています。一方で、買い手は、売り手の10倍はいるのです。「日本で会社を売る・買うという選択肢をもっと当たり前にしていく」これは、まだまだ課題であると認識しています。事業承継やM&Aについての社会啓蒙は、私たちの重要な役割のひとつだと考え、社員一同でがんばっています。

 

サブスクリプションでもっと挑戦する人を支援したい

通常M&A業界は、成約手数料というビジネスモデルが当たり前で、TRANBIも成約したら買い手から成約価格の何%かをいただくという料金体系でした。しかし、2021年1月から定額料金制、つまりサブスクリプションに変更し、譲渡希望価格に応じて交渉ができる月額プランを用意しています。成約手数料はいただきません。月額プラン会員は、M&A交渉以外にも、人材・アライアンスマッチング機能など、さまざまな機能を使うことができます。

 

新しい料金体系にした背景は、日本の小規模M&Aマーケットが広がるなかで、より質の良いサービスを提供していきたいという想いがあります。小規模事業者は相当数ありますから、M&Aを検討する方たちが使いやすく、安価で、多くの方が挑戦できる仕組みを持続的に提供するためにはどうあるべきか、という議論を重ねました。事業を買おうか悩んでいる方は、例えば、その事業の平均粗利や人件費がいくらぐらいかかるのか、それに比べて、買おうとしている案件はどうなのか、その把握が必要ですよね。経営者同士で相談できる仕組みや、学べる仕組みを提供していかないと、本当に悩んでいる方の解決にならないと思います。

 

TRANBIとしてはサブスクリプションサービスの提供によって、M&Aを検討する方や挑戦をしている方が、長期的に手厚いフォローを受けられる仕組みを提供していきたいと思っています。例えば実際に買った後、経営者にかなり負担がかかりますので、支援する仕組みとしてTRANBIのコミュニティ「M&Aな部」があり、経営者同士が悩みを相談し合える場として活用いただいています。

 

事業を常に売れる状態にすることが事業承継対策になる

「経営は人育て」だと思っています。事業を立ち上げ、仕事をするなかで、担当が成長できるよう心がけています。さまざまな規模の企業を見てきて、人が育っているかどうか、組織ができているかどうかは、企業規模によって違っています。小規模な会社であればあるほど、社長自らが事業を回しています。社長がいないと現場が回らない会社はM&Aでも売れにくいのです。
そのような、他人に引き継げない状態にせず、社員が成長していて、組織がしっかりしている状態をつくっていくのが、経営者の仕事であると考えています。

 

実はそれが1番の事業承継対策ですし、今まで日本ではそのような発想がなかったのではないでしょうか。会社、事業を常に売れる状態、誰かに任せても経営が問題なく進む状態をつくるには、社員を育てることが1番重要であり、それが経営だと考えています。

 

 

起業を目指す方へのメッセージ

 

私も20ほど事業を立ち上げましたが、残ったのはわずかです。ゼロから事業を創り、売上をつくるというのはいかに難しいかを実感しています。成功するためには、まず、たくさん挑戦することが必要です。そのために、できるだけ早くスタートする。
実は、M&Aの成功率もたくさん買っている会社ほど上がります。事業を創ることも回数を増やしている人の方が、成功率が高いのです。起業にM&Aを活用する、ということは、たくさん挑戦するための選択肢のひとつです。ゼロから創るのではなく、まず買って始める。うまくいかなかったら売る。また次の挑戦をする。さまざまな仕組み、支援やコミュニティを活用してたくさんバッターボックスに立つことが、大切ではないかと思います。

 

 

記事投稿日:2022年9月30日