株式会社Simplee
株式会社Simplee
“旅も仕事も、育児もあきらめない”
多言語チャイルドケア×ITの挑戦
株式会社Simplee
代表取締役諏訪 実奈未さん
代表取締役
諏訪 実奈未さん/Minami Suwa
■経歴
2017年に慶應義塾大学総合政策学部を卒業。ハーバード大学主催の国際会議に日本代表として参画。ケンブリッジ大学のボーディングスクールを経験し、女性向けマーケティング事業・キャンパスラボを展開。2017年に外資系コンサル企業に入社。大手金融機関のシステム導入に携わる。2022年に株式会社Simpleeを設立。
育児との両立を“自分らしく”設計する
チャイルドケアサービスと
地域との連携した“家族エコシステム”構築を
―「Simplee」は、どのような事業を展開している会社ですか。
事業は大きく2つに分かれます。
ひとつは、港区立産業振興センターでも導入されている法人向けオンデマンド・チャイルドケア。法人施設やイベント利用者が、必要なときにすぐ呼べるシッターサービスで、これまで煩雑だった予約プロセスをシステム化し、スムーズな子育てとの両立を実現しています。
託児中には、IoT・プログラミング・英語といったコンテンツも提供しており、単なる「預かり」ではなく、子どもにとっても実りある時間を届けています。
もうひとつは、訪日観光客やビジネスパーソン向けの旅先託児です。
宿泊施設や観光事業者と提携し、「旅の中で子どもを預けられる」という安心だけでなく、浴衣体験や昔ながらの日本の遊びなど、文化体験を通じて“子どもも旅の参加者に”なるサービスを展開しています。旅行や出張と育児の両立を支えると同時に、地域と連携したエコシステムの一翼も担っています。
―事業にはどのような思いが込められていますか。
私たちは、「育児を理由に“選択肢”を狭めない社会をつくる」ことを目指しています。託児は、親の自由のためだけでなく、子どもにとっても新しい世界に出会える機会。
だからこそ、私たちのチャイルドケアは“時間の贈り物”であり、未来への投資だと考えています。
大切にしている理念は、「時は命なり」。人生で最も限られた資源である“時間”を、親子それぞれが自分らしく過ごせるように。私たちは、誰かのかけがえのない一日に寄り添えるコンシェルジュとして新しいカテゴリを創出したいと考えています。
―大学卒業後、キャリアのスタートはコンサルでした。
私が学生時代に作った事業が大手企業に譲渡されたときに、日本の大企業の中を見ることができたので、社会人になったら次はグローバルな視点を得たいと、外資系コンサルに進みました。 実際に入社してみると、360度評価やダイバーシティの文化が根付いていて、日系企業とは全く違うダイナミズムがありました。
出産後、勉強会を諦めた経験が
起業の原動力に
―コンサルに就職した後、起業したきっかけを教えてください。
出産後、参加したかった勉強会を諦めたとき、「今だけだから」と自分に言い聞かせる反面、心のどこかで“本当にこれでいいのか”というモヤモヤがずっと残っていました。
将来、子どもが成長したときに「あの頃、私は本当はこうしたかったんだよ」と過去の“やりたかったこと”を語るのではなく、「やりきった」と言える人生にしたい。 でも同時に、子どもに寂しい思いをさせることにも葛藤がありました。
だからこそ、親が自分らしく挑戦できる一方で、子どもにとっても豊かな時間になる“預け方”があってほしい。 その両立が叶う社会をつくりたいと思ったのが、Simpleeを立ち上げるきっかけでした。
―ご自身も子育てをする中で、もどかしかった経験があったのですか。
子どもを出産したばかりの頃は、「母親になったのだから、まずは育児に専念しなければ」と、自然と自分を制限してしまっていました。
でもある日ふと、「このまま何年も“諦める”を積み上げてしまったら、いつか後悔するかもしれない」と思ったんです。特に、新卒で入ったコンサルティング会社では、知識をアップデートし続けるのが当たり前の環境で、“学び続けること”が自分にとっての生きがいでした。
だからこそ、それが少しずつ失われていく感覚に自分に、どこかで違和感を感じていたんだと思います。
―育休から復帰した直後は、どのような生活になりましたか。
時短勤務で復帰しましたが、DXやAIなど新しい分野が出てビジネスが大きく変化しているので、積極的にキャッチアップしていかないと業界に追いついていけないと感じました。子どもをお迎え行った後、さらに別の施設に預けたり、習い事に通わせたりして、その時間に自分はオンラインで勉強する、という生活をしていましたね。
それでも習い事は30分くらいで終わってしまいますし、一時預かりもなかなか予約が取れなかったり、施設に行くまで時間がかかったりで、子どもを預けるのも簡単ではありませんでした。
―そんななかで、現在のサービスのもとになるシステムを作ってみたのですね。
プログラミングのスキルを生かし、スマホで託児サービスを簡単に予約できるモック(試作品)を作ってピッチコンテストに出したところ、投資家が出資を決めてくれたので起業しました。
共働きが当たり前になるなか、子どもを預ける手続きに電話や書類の提出が必要で不便を感じるという声を周りで多く聞いてきたことも、開発のきっかけになりました。
子育てをしつつ、
新しいことを学び進む楽しさを実感
―起業するときには迷いはありませんでしたか。
当初は、株式の仕組みも税制もよくわかりませんでした。
でも、「知らないからやらない」ではなく、「知らないからこそ学ぼう」と決めて、港区の出前経営相談に通ったり、東京都のスタートアップ支援プログラムに参加したりしながら、少しずつ知識を積み上げていきました。
プログラムに参加するときには、資金調達や事業計画、ファイナンスなどテーマごとに“今の自分に必要な問い”を持って臨むようにしていました。 メンターからいただいたヒントをもとに、自分で調べて実践し、また相談する。そんなサイクルを何度も繰り返しながら、一歩ずつ前に進んできました。
―起業後、育児との両立はいかがでしたか。
毎日、試行錯誤の連続で、時間と体力との勝負でした。精神的に追い詰められそうなときもありました。でも、子育てしつつ、起業家として新しいことを学びながら前進する楽しさがあったからこそ、うまくできたと思います。
―子育てと会社経営を両立するための工夫はありますか。
夜10時くらいに寝て、朝4時ごろ起きる生活スタイルを続けています。朝は連絡も来ませんし家族も寝ているので、誰にも邪魔されず集中して仕事ができます。朝からいいスタートを切ると1日がいい日になる感覚があるので、朝に仕事をするスタイルは気に入っています。
―起業して、どんなときにやりがいを感じますか。
サービスを提供していると、私が育児とキャリアとの両立で葛藤していた時期と同じ状況にある保護者と出会うことが多いです。私自身はもっと外に出たくてもなかなかできず苦しかったという経験があったからこそ「今日、託児サービスがあったからイベントに来られました」という声を聞くと、この事業をやってきてよかったと思えます。
それから、事業をしていると自分自身が様々なことを学んで成長できますし、会社としての知見や資産も増えていきます。そのこと自体もやりがいにつながっていますね。
―起業して、どんな学びがありましたか。
事業を新しく生み出して拡大していくときには、起業・事業・経営の3つのフェーズがあり、それぞれの段階で様々な学びがあります。
例えば、1人で行動するときと3人をマネジメントするときでは、組織運営上知っておくべき知識は異なりますよね。その知識を得るだけでも見られる景色が違ってきて楽しいです。
KPIの管理も初期は闇雲にやっていた部分がありましたが、だんだんと週次、月次、年次のKPIを具体的に設定していけるようになりました。
もちろん、自分自身だけでなく会社にもビジネスの知識が残っていきます。そうした知識は、貴重な無形資産だと思っています。
―起業して苦労することもあるのではないでしょうか。
会社を経営しているとよくも悪くも大変なことがあります。自分でコントロールしきれないことも含め、大変なことの方が8割ぐらいかもしれません。ただ、やりがいやサービスにかける思いがあるから乗り越えられています。大変なことにぶつかる分だけ、自分自身が強くなれるチャンスに巡り合えたとも思っています。
―どんな大変なことを乗り越えてきましたか。
新しいサービスを作ろうとすれば、事業者登録の手続きなどやるべきことが増えていくという現実には何回も直面してきました。限られた時間のなかでやるべきことを取捨選択していかなければいけませんが、判断の際には自社のミッションに沿っているか?という問いです。その軸を持つことで、目の前の優先順位も、迷いなく整理できるようになってきました。
大手企業とのコラボで
保育業界トップレベルの報酬を
―コンサルでの仕事が起業に生かされた面はありましたか。
私はコンサル時代に金融系のDXを担当し、要件定義、開発、テストという全ての工程を経験させてもらいました。ある程度プロジェクトマネージャーの視点が学べたことは大きかったです。
スタートアップを経営するときには、ビジネスサイドと開発サイドの架け橋にならないといけません。ビジネスサイドが言っていることを分かりやすく開発サイドに伝えて、開発サイドの技術的な話をビジネスサイドにかみ砕いて言うことはできるようになりました。
それから、ITのコンサルをするなかで身についたプログラミングのスキルは、システムの開発に生かされています。
―開発にあたって、ユーザー視点で気を配った点はありますか。
はい、代表として自分自身で実際に利用して、サービス内容や使い心地を確認しています。
特に注視したのは、保護者がストレスなく予約できるか、手続きが簡潔か、という点です。忙しい保護者の方が、迷わず・安心して・気軽に使えることを徹底的にチェックしました。
―保護者やお子さんからの反応はいかがですか。
利用してくださった保護者からは毎回フィードバックをいただいていますが、5段階の評価で今のところは平均4.8ぐらいです。
お子さんたちも楽しい時間を過ごしているようです。プログラミングでは、コーディングをしてロボットを動かします。操作も子どもが見て分かるような簡単なもので、ロボットを右や左に動かしたり、光や音を出したりするので、喜んでいます。
―保育にあたるスタッフへの報酬設定も工夫しているそうですね。
私もシッターの資格を取って保育現場で働いたことがありますが、体力も使うし、子どもの安全にも神経をとがらせます。保育業界の待遇は低水準だということが問題になっていますが、「Simplee」は大手企業とコラボしたり、ターゲット設定で独自性を出したりして、業界トップレベルの水準の報酬を設定しています。
そして起業を目指す際は、勢いだけでなく、経験を積んだり、謙虚に勉強したりすることも大切です。根気強く、粘り強く努力することを忘れないでください。
子育てをしているからこそ高まる集中力
思い立った日から行動を
―会社を経営するうえで大切にしていることはありますか。
人を採用する際には「時は命なり」という理念を説明し、それに共感してくれるかどうかを大切にしています。スキルのような表面的なものではなく、その人のマインドや思考をしっかり見極めます。だからこそ、「Simplee」には1日1日を大切にしている人が集まってきますし、お客様もそういった理念に共感してサービスを受けてくださっていると思います。
―港区立産業振興センターの会議室の利用者に向けた、オンデマンド託児サービスも始まります。
私たちは、呼びたいときだけオフィスに呼べるオンデマンドチャイルドケアを提供していきたいと思っています。センターでイベントを開催する事業者様には特に気軽に使っていただき、参加者の層が変化する感覚なども実感していただきたいですね。
―今後の会社の展望を教えていただけますか。
まだまだ社会には、出産・育児をするとキャリアをあきらめてしまう風潮があります。今後もITの力で子育てをしやすくして、出産後も以前と変わらずにキャリアを築いていけるような新しい世界観をつくっていきたいと思っています。
―これから起業したい人へのメッセージをお願いします。
人生の中で今日が1番若い日です。いつかやろうと思っていることを先延ばしにすると、チャンスや学びの機会がどんどんなくなってしまうので、思い立ったその日から、行動していくといいのではないでしょうか。まさに「時は命なり」です。
―諏訪さんと同じように、育児や介護をしながら起業したいという方に向けた応援の言葉をいただけますか。
私自身、育児をしながらの起業は簡単ではありませんが、シッターなどのサービスを活用することで、思ったよりも無理ではなかったと実感しています。子育てをしているからこそ、限られた時間の中で最大の結果を出そうという考えも生まれ、集中力も高まるのではないでしょうか。
記事投稿日:2025年3月28日