リケナリシス株式会社
リケナリシス株式会社
ちいさな命を見守る
「姿勢推論AI」の進化系
リケナリシス株式会社
代表取締役大関 敏之さん
大関 敏之さん/Toshiyuki Ozeki
慶応義塾大学理工学部卒業。93年より日本オラクルにて主にマーケティング、アライアンス営業に従事、資本金100万円のベンチャーから時価総額7兆円の東証一部上場まで会社の成長の全てを経験する。2019年よりリケナリシス株式会社代表を務める。
理研、大学とともに「姿勢推論AI」を開発
乳児の安全を見守る商品開発に挑む
―貴社は理化学研究所出身のベンチャー企業として設立されましたが、事業内容を教えてください。
2015年に、理化学研究所の脳科学者、数学者、心理学者が中心になり、理研ベンチャー企業として設立されたのが弊社のスタートです。主に前臨床試験装置の開発に取り組み、大学などへコンサルティング業務をおこなってきました。
現在は、装置の機能から切り出した映像系のAI技術を駆使するビジネスにシフトチェンジし、理化学研究所との共同研究プロジェクトでの知見をもとに、人物の姿勢を検出するAIを独自開発しています。また、平行してVideo AI開発支援ツールの販売と、Video AIを作成したい方々へのコンサルティング事業を展開しています。
物体を検出するAIの利用は一般的になりつつありますが、弊社は多数の特徴点を活用し、人間や生物の姿勢を検出する「姿勢推論AI」に特化しています。この技術を用いて、SIDS(Sudden Infant Death Syndrome)として知られる、乳児のうつぶせ寝による窒息事故や原因不明の突然死を検知し、睡眠中の死亡事故を未然に防ぐサポートをしています。
近年は、ICTを活用する保育園が増えており、ICT技術を活用して園児の安全を見守る取り組みが広まっています。
保育士不足という社会課題を
AI技術で解消する取り組みを
―貴社が開発した午睡チェックサービス「hana-an®」が誕生した経緯を教えてください。
近年、待機児童による問題解決のために、保育園の数が急増しました。現在、全国には約4万の保育園があります。そして、急速な増加に保育士数が追い付いていません。保育士資格を持ちながらも保育園で働いていない人は95万人以上もいると推測され、これは保育士の離職率の高さを物語るデータです。
保育士の定着が難しい原因として、事務作業による残業の多さがひとつに挙げられます。保育園関係者への取材からも、保育士は園児の成長を保護者と共に見守りたい一方で、実際には記録や報告作業に多大な時間を費やしていることが明らかになりました。保育士が不足した場合、園の運営において新たな採用活動や人材派遣会社の協力が必要になります。支出や手間が増えるだけでなく、何よりも大切な園児の安全に配慮しなければなりません。
弊社の保育施設専用午睡チェックサービス「hana-an®」を活用すれば、コストを抑えながら事務作業を劇的に削減することができます。保育士が園児に向き合う時間を確保でき、園児の安全面に配慮した環境を整えることができます。
圧倒的に使いやすい専用アプリと
超小型高性能カメラを搭載
―AIアプリと聞くと操作方法が難しそうですが、使用感についてお聞かせください。
ICT技術を使用した午睡チェックサービスは、これまでにもいくつか存在していました。従来の方法は、ボタンを利用したセンサが主流でしたが、それでは一人ずつにボタンの取り外し作業が必要で手間がかかりました。
しかし、「hana-an®」は、天井に設置された超小型カメラが最大12名の乳児の午睡を見守ります。そのため、毎日のボタンの取り付けが不要になるので、午睡時間前の準備がスムーズにおこなえます。
さらに、アプリの操作方法も簡単で、わずか4回のタップで完了します。
これまでは保育士が入れ替わるたびに、ボタンの付け方など一から指導しなければいけませんでしたが、「hana-an®」は一人ひとりに使い方を細かく指導する必要がありません。
また、入力作業は全てタブレットアプリだけなので、寝ている園児の周りで立ったりしゃがんだりといった作業もすべてなくなります。
決して進化を止めない
「推論系のAI」のその先へ
―大関さんの今後の展望をお聞かせください。
まずは午睡見守りサービスの観点からですが、乳児の行動を予測することは難しく、いかなる事情があっても待ってくれません。保育士の方々をサポートできるように、忙しい現場の手間をひとつでも多く減らしたいです。
そしてAI開発企業としては推論系のAIをもっと広く使ってもらいたいと思っています。この技術は応用が可能なので、人物の動きに合わせた商品開発を追求できます。利用者がAIを使っていることを知ることもなく問題が解決されているような状況ができれば理想です。
また、推論系のAIは作成するまでの工数が非常にかかります。弊社では開発支援ツールを作成し、この工数を削減するお手伝いをしています。このソフトウェアをウェブサービス化して海外展開を図ることを画策しています。港区から世界へ、夢は広がるばかりです。
都会にいながら自然を感じられる
お気に入りのオフィス環境
―貴社が別のエリアから港区に拠点を変えられた理由を教えてください。
起業時は、理化学研究所の近くでオフィスを構えましたが、徐々に開発が進むにつれて、利便性の高い港区に移動しました。
姿勢推論AIの開発者は海外の方が盛んであり、弊社の株主の2割は外国人です。外国人との共同研究やAIのソース部分でやり取りする機会が多いため、国際文化会館にオフィスを構えて、外国人とも密接な交流を図る努力をしています。それに、ここは緑が豊かで自然に囲まれた穏やかな環境で、とても気に入っています。まるで、都会の中にあるオアシスのような空間です。
また、顧問弁護士や税理士の事務所も港区内にあり、徒歩圏内に位置しています。交通アクセスも優れており、利便性の高さに満足しています。
開発した商品が家族の役に立った
それは偶然でも夢を追い求めた結果だった
―港区には多くの企業が集まり、起業を志す方も大勢います。
そのような方にメッセージをお願いします。
偶然にも、「hana-an®」の開発に着手する前の年に、娘が生まれました。周囲からは私欲の商品だろうと笑われましたが、本当に偶然でした。
以前からSIDSの問題について、理化学研究所と共にプロジェクトを検討していましたので、このプロジェクトに取り組むことに運命的な縁を感じました。起業自体は勇気と決断力が必要だと思っています。港区はそのような挑戦にふさわしい場所です。
ここにはビジネスを成長させるための多くのリソースや機会が揃っています。区には多くのビジネス支援団体やコワーキングスペース、起業家向けイベントがあります。
これらのリソースを活用し、地域のエコシステムを活かしてください。顧客も多く、利便性も高いため、顧客のニーズを効果的に収集するのにも適しています。起業した方が成功し、地域社会に良い影響を与えることを心から願っています。
記事投稿日:2024年2月2日