ハイパーダイン株式会社
ハイパーダイン株式会社
独自のAIアルゴリズムを開発し、社会の課題解決に貢献する。
ハイパーダイン株式会社
代表取締役五十嵐 一浩さん
「動作推定」ほかAIを活かした技術の開発・実装
ハイパーダイン株式会社
代表取締役
五十嵐 一浩さん
Kazuhiro Igarashi
[プロフィール]
ソニー株式会社で、社内システム・携帯電話ソフトウェア・クラウドサービスの開発・ICカードや半導体の技術戦略・新規事業開発、プロジェクトマネジメントコンサルティングなどの業務に従事。ソニー出身者とともにハイパーダインを創業し、2019年より代表取締役をつとめる。PMP・ネットワークスペシャリスト、横浜市在住。
画像認識と最適化が技術開発の2本柱。
当社ではIT関連の幅広い技術開発を行っていますが、中でも画像認識技術と最適化問題を解決する技術が現時点での2本柱となっています。
画像認識のわかりやすい分野は製造業です。ラインに流れているモノの検品を今までは人が行ってきましたが、AIカメラで捉えて解析し、省力化・省人化を図るといったことです。
また、最適化問題とは、例えばトラックによる荷物の配送や倉庫内でのピッキングを効率的に行うために、店舗や棚をどのような順番で回れば最も短いルートや時間で効率的に回ることができるかを解析する問題のことです。従来の配送計画づくりを人に代わってAIが行う技術を開発しています。この技術は店舗でのパート・アルバイトのシフト作成、材料などの最適な組み合わせなど、さまざまな領域に応用できます。
当社ではオリジナルのAIアルゴリズムを開発し、それらの高度な技術の実現に挑んでいます。
社会貢献の視点で自分のやりたいことを追求。
起業する前はメーカーに勤務し、携帯電話などの商品開発をはじめ、ネットワークサービスや半導体のデバイス開発の事業企画、新規事業の開発ほか、かなり広範な領域の仕事をしていました。そこで培った知見の中で、今後の市場拡大が期待されるAI分野に注力しようと考えたのです。
ただし、大きな会社にいては自分がやりたいことをやりきることは難しく、また利益を追求するだけでなく社会貢献を意識した事業活動をしたいという想いもありました。そこで、同期の仲間と一緒にこの会社を立ち上げました。
海外のIT人材を日本で育て、本国でも活躍してもらう。
現在、当社では外国籍のエンジニアが数多く在籍しています。日本ではIT人材が全然足りていない状況で、特にAI関連の人材は枯渇すると以前から言われてきました。我が国の競争力がどんどん低下していることに危惧を感じ、海外の力を借りることは外せないと私は会社員の頃から考えていました。
たまたま私にはバングラデシュに友人がいて、彼に「海外の優秀なIT人材を採用できないだろうか」と相談したところ、バングラデシュ工科大学という、非常にレベルの高い理系の大学の先生方に引き合わせてくれました。先方も学生たちの就職先やキャリアパスについていろいろ考えていたようで「ぜひ協力したい」と賛同してくださいました。
当社としては、バングラデシュの人材をまずは日本で雇用し、将来は本国に戻って働きたいというメンバーには帰国してもらって、起業やそのまま現地で継続して働いてもらう環境を作ろうと考えています。
バングラデシュでは、優秀なIT人材が海外に流出してしまうことが社会問題になっています。日本の品質を学んだ後、現地に戻って最先端の技術でシステムやサービスの開発を行う人材を育成していくスキームを、同大学の先生方と一緒に作りたいと思っています。
AIのトレーニングを行うプログラムも共同開発済みで、すでに先生が自ら社員候補者たちに教えてくださっています。日本としても外国籍の優秀なIT人材を活用できるので、WIN・WINのスキームと言えます。
モノと人の動きを同時に読む独自技術を開発。
当社の主要な事業の一つである画像認識の分野で、大手企業も含め競合他社があまり手を出していないのが「動作推定」という技術です。AIカメラによって認識した画像の情報から、人の動作を推定するというものですが、これがなかなか難関な技術でまだまだ確立されていない領域だと私は捉えています。
「骨格推定」という技術はたくさんの会社が手掛けています。それは手先や肘、肩、腰、膝などのパーツの動きから人の動作を推定するものにすぎません。当社ではその技術を活用しつつ、さらに「モノと人の動作の同時推定による意味理解」という独自技術を開発しました。
例えば、手に持っているリンゴと、その人の動きをリアルタイムに認識し、「今この人はリンゴを持って何をするのか」を推定します。言わば、モノと人の関係性から行動を精度よく予測するのです。すでにありそうな技術だと思われがちですが、意外と今までなくて、当社が特許を取得しました。
この技術はどのように応用できるかというと、刃物を持った人物の動きを読んで防犯に役立てるとか、駅のホームを歩く白杖を持った人の事故防止につなげるとか、様々な使途が考えられます。また、工場で作業を行っている人が間違った治具を持っていないかをチェックしたり、治具を持って作業をしている時間を計測して労働管理を行ったり、そういった使い方もあるでしょう。さらに、ゴルフクラブを持って行うスイングの解析などにも応用できます。
他社が手を出せない難関な領域に挑み、差をつける。
そして現在、積極的に開発を進めているのが、介護施設などでの事故防止を実現するシステムです。夜間に1人の職員が入所者20人くらいを見回らなければならない状況では、どうしても目が届かずベッドからの転落事故などが起こってしまう可能性が高まります。
実際、介護施設では、入所者がベッドから起き上がり、いったん座った状態から立ち上がろうとして転倒するといったことが多いのです。そこでAIカメラで寝起きを検知し、「起き上がる」「ベッド上を横に移動する」「座る」といった状態を段階的に認識します。職員がどの段階で駆けつけるべきかは個人差がありますが、それぞれの状態を把握できれば速やかな対処が可能になります。それを実現するシステムを、当社はプロット開発しました。
その他にも、腕にどのくらいの負荷がかかっているかを推定し、生産や介護の現場で作業者の身体的な負担をリアルタイムで把握するシステムの開発も目指しています。人に特別な器具を装着するのではなく、AIカメラで捉えて画像だけから推定するという技術です。まだ研究開発中ですが、世の中でそれを実現した会社はまだ無さそうなので、そうした他社がやっていない領域をどんどん狙っていきたいと思っています。
ビジネスよりも技術に特化した事業に注力。
会社を設立して5年目になります。1年目は人材育成などの準備期間でまったく売り上げがなかったのですが、おかげさまでその後は順調に4期連続黒字を達成しました。
どちらかというと現段階では、ビジネス特化というよりも技術特化の方針で事業を行っています。先端技術を活用して、いかにビジネスを良くしていくか、社会問題を解決するかというところに注力したいと考えています。
自社で開発した技術のご提案に留まらず、お客様のほうから「こういった技術がほしい」「技術的にこういうことができないか?」といった話をいただいて、それにお応えする技術開発の受託型のビジネスが現在の事業の柱です。対象分野もあまり選ばずにやっています。
多くのベンチャー企業は、垂直統合的に「このビジネスにはこの技術」という形で事業化することが多いと思いますが、当社はプラットフォーム型。お客様のニーズに応えながら積み上げ式で技術やサービスを開発していくスタイルです。だから、まずは人を作り、次にお客様を作って受託で技術を開発・蓄積し、次に自社のサービスを展開していく。そんなイメージです。
AIのベンチャー企業としては後発なので、すでに市場が確立している舞台で戦うのは厳しいという実情もあります。だから、動作推定など技術的に難しくて他社があまり手つけてない領域、これから広がりそうな領域に踏み込んでいこうと思っています。
日本企業は新しいことを進めていくのが苦手だと私は感じています。リスクをとらないことを優先するあまり、ワールドワイドなイノベーションの潮流の中で周回遅れになっている感があり、「もうちょっと踏み込んで頑張ろうよ」という想いを抱いています。当社も小さな会社ですが、あえてリスクを負ってでも新しいことにどんどん挑戦して、技術を蓄積していきたいと考えています。
幅広い業界のお客様に、当社をうまく活用していただいて、積極的に先端技術を事業に取り込んでいただける環境の構築を進めています。
今後の進展が期待されるメタバースにも注力。
その他にも、当社は幅広いビジネスを展開しており、コンサルティングサービスや論文調査・実装サービスなども行っています。後者は、国内外の論文を調査し、どの論文がお客様のニーズに合っているかをレポートし、さらには当社が実際に開発・実装してみてその技術が本当に使えるかどうかを検証することまで行っています。
そして最近、将来に向けて力を入れ始めたのがメタバースの領域です。本年、世界的な半導体メーカーである米国のNVIDIA社と、共同マーケティングおよび技術開発に関する業務提携を結び、デジタルヒューマン、デジタルツインの各種開発をスタートしました。
デジタルヒューマンとは、人間味あふれる豊かな表情や言葉を話すAIアバターです。これを当社の保有する認識技術と組み合わせることで、AIが相手の表情をうかがって適切な会話を行い、ニーズに対処することが可能になります。将来的にはホテルのフロントや銀行の窓口などで、デジタルヒューマンが人に代わって接客を行うといったことが考えられます。まだまだこれからの技術で、今後本格的に開発を行っていく領域になります。
起業では壁を乗り越えてきた経験がモノを言う。
私はもともとはサラリーマンでしたが、サラリーマンをやっていたら起業などそうそうできるものではないとずっと思っていました。
お金のことも、人材の確保や育成も、仕事を集めるのも会社がやってくれましたからね。起業するとその状態が180度ひっくり返り、すべて自分でやることになります。起業をするにはマインドを変えることができるかどうかがが大きなポイントになると思います。
では、どうして起業しようと思ったのか。私の場合、サラリーマン時代から「人のやらないことをやっていきたい」というところがありました。ただし、企業に所属していると、違うなと思いながらもやらなければいけないことが少なからずあって、自分が本当にやりたいことは思うようにできなかったりします。
定年の上限は60歳ですが、まだまだその先も働けるだろうし、人生の中でやり残しを後悔したくなかったので、それなら自分で事業を興したほうが良いのではと思い、50歳で起業しました。
前職でいろいろな事業に関わらせてもらったことは、現在の糧になっています。壁にぶつかるたびに、その飛び越え方を覚えてきましたね。それらは今になって活きていますし、起業には経験というものはとても重要だと改めて感じています。
50歳という年齢は、世の中の状況をわかっているし、体力もまだまだある。一番良いタイミングで独立したという感覚があります。
それで独立したわけですが、起業して一番良かったのは様々な場面で判断が一瞬でできることですね。ビジネスを進めて行く上で、スピードが重要だと改めて認識しています。
起業を目指す方へのメッセージ
もし「こんな世界を目指したい」というキーワードをしっかり持っていて、それを実行したいという気持ちがあるのなら、一度きりの人生ですので起業しても良いのではないかと思います。ただし、目の前のハードルをうまく乗り越える経験を積んでいることはとても大事です。乗り越えた数は自信にもなります。予想もしていなかったような課題に直面しても、大抵は乗り越えられると思いますで、是非トライして欲しいと思います。
記事投稿日:2022年11月11日
※港区「新製品・新技術開発支援事業補助金」の採択事業者です。