グローブ税理士事務所
グローブ税理士事務所
税理士の専門性を生かし
スタートアップを支援
グローブ税理士事務所
代表茅根 幸祐さん
代表
茅根 幸祐さん/Kosuke Chinone
■経歴
2009年 IT系スタートアップ企業に入社:マーケティングの企画・コンサルタント職として従事
2012年 東京国税局に入局:都内税務署の法人課税課に配属、特官所掌法人含め中小企業の税務調査を100件以上担当
2020年 税務大学校へ配属:国税庁の職員教育機関で教育官補として新任税務職員の指導に従事
2020年 国税庁長官官房へ配属:国会対応および税務統計業務を担当。国会答弁書の作成や国会議員からの質問・レク対応に従事
2022年 東京国税局調査部に配属:資本金1億円以上の大企業の税務調査を担当。多額の移転価格課税を処理
2024年 税理士資格を取得:グローブ税理士事務所を開業
税理士の専門性を生かし、
スタートアップ支援に特化
―「グローブ税理士事務所」では、どんなことを中心に顧客の支援をしていますか。
当事務所は、創業初期のスタートアップ支援に特化したコンサルティングファームとして、税理士事務所の基本的な業務である税務、会計業務から資金調達支援まで、総合的な経営コンサルティングを提供しています。税理士事務所でありつつ、コンサルティングファームだという点が大きな特徴ですね。
私たちは、税務会計のアウトソーシング先ではなく、事業を一緒に拡大していくビジネスパートナーでありたいと考えています。単にサービスを提供して終わりという形ではなく、クライアントと同じ目線でビジョンを実現していくために支援をしていきたいという思いでいます。
―大切にしている理念は何ですか。
「生き生きとした人生の実現に貢献する」という理念を掲げています。私が考える「生き生きとした人生」とは、朝起きる時に希望を持って起き、昼間は一生懸命働いて、夜寝る時は「いい1日だったな」という感謝をして眠りにつくという日々を積み重ねることです。特に、起きている時間の7割くらいは仕事をしていますよね。だからこそ、自分がお客様の事業を拡大していくこと、経営課題を解決していくことが「お客様の生き生きとした人生の実現に貢献する」という理念の体現につながると考えています。
事業が拡大すると、クライアント企業の経営者はもちろん、そこで働く従業員の方も経済的な豊かさや、自分たちの製品やサービスが世の中に広まっていくやりがいを持つことができます。
そして、その先の消費者や取引先の方も、自分たちの生活が便利になったり、さらにビジネスが拡大したりといった良い影響を感じられると思います。もちろん、関係する方々の家族の幸せにもつながります。
―事務所を開業して3か月ほどとのことですが、これまでにどんな支援をしてきましたか。
港区にある「株式会社OpenHeart」様という会社が創業する半年ぐらい前から支援を続けています。事業計画を一緒に作るところから、資金調達の支援までさせていただいて、最近、ベンチャーキャピタルから7000万円の出資を受けることが決まりました。
この会社は、スマホで写真を撮ってアプリにアップロードすると3Dが生成される「TAVIO」というアプリを開発しています。このアプリでは例えば、車の写真を複数の角度から撮ってアップロードすると、車の写っていない部分まで3Dで生成し、車を360度から見られるようになります。
この会社はきっとこれから成長し、日本を代表するスタートアップになっていくと思っていますが、こうした会社をそばで支援し、サービスが普及していく過程を一緒に歩めるのは、とてもワクワクしますし、やりがいを感じます。OpenHeart様からは「今後ももっと事業のことを見てもらいたい」というお話もいただき、ちょっとした相談も日常的にしていただけるようになりました。そういった関係性が構築できたのはうれしいですね。この関係性を維持しながら、一緒にOpenHeart様をさらに成長させていきたいと思っています。
―支援にあたって心がけていることはありますか。
経営者と同じ目線、同じ方向を向いて、事業拡大にあたっての課題や問題を抽出し、その解決方法を一緒に考えることを心がけています。会計税務のアウトソーシング先ではなく、コンサルティングファームであるということは常に意識しています。
―クライアントのOpenHeart様とはどのようにつながったのですか。
もともと私が大学院に通っていた時の友人経由で、代表と知り合いました。その時は代表が会社を始めようかと考えているぐらいの段階でしたが、その後、事業のアイデア段階から関わることができました。事務所の開業前も含め、関わっているのは7,8カ月間くらいですね。
―シード・アーリー期のスタートアップを支援しているファームはほかにもありますが、グローブ税理士事務所の強みは何ですか。
税理士事務所でシード・アーリー期のスタートアップに特化して支援しているところはほぼないと思います。会社を設立すると税理士は必要ですよね。そこで接点があるのが、当事務所の強みです。そしてどうせ税理士をつけるなら、いろんなアドバイスを提供してくれる方が良いですよね。創業初期から関与できるならば、その事業拡大に貢献できるサービスを提供したいというのが、この事務所のコンセプトです。
また、1から10まで相談できるというイメージで、気軽にすぐ質問していただける体制を整えています。中小企業の経営者が税理士に持つ不満として「レスポンスが遅い」という声をよく聞いていました。ですから、私はメールも翌日までには返しています。信頼関係は、日常のコミュニケーションで構築していくものだと思うので、小さなことの積み重ねを大事にしたいですね。
国税職員として経営者と対話を重ねたことが
現在のビジネスのヒントに
―大学卒業後のキャリアについて教えてください。
大学では作家になりたくて文学部で学んでいましたが挫折し、卒業後1年間、カナダのバンクーバーに語学留学しました。その時に日本の外から、ライブドアやサイバーエージェントといったIT系のスタートアップが伸びている状況を見て、自分も起業したいという思いを胸に日本に戻ってきました。その前に、まずはスタートアップで勉強してから起業しようと、IT系スタートアップに入社しました。ここでは、インターネット広告を利用して認知を広げるマーケティング分野のコンサルティングをしていました。本当はそこで経験を積んで、すぐ起業しようと思っていたのですが、なかなか自分がやりたい事業を見つけられず、ここでも挫折してしまいました。
そんな中、税務職員をしていた祖父が国税職員の採用パンフレットを毎年送り続けてくれたことから、税理士として独立して起業する道を見据えるようになり、東京国税局に入りました。国税職員として一定年数勤務すると、税理士試験の一部の科目が免除されるんです。 自分が何の事業をしたいのか見つけられず起業をいったんあきらめたという経緯がありましたが、税理士の資格があれば、ある程度専門性が明確になり、どんなサービスを提供するかが見えてくるだろうと思いました。
―東京国税局ではどのような仕事をしてきましたか。
最初の6年間ぐらいは、ずっと中小企業の税務調査をしていました。税務調査の際には中小企業の経営者100人近くと対話し、経営者の抱える悩み、課題から、税理士に対しての不満まで聞けました。例えば税理士に対しては「経営に対してアドバイスがもらえない」「税金に関する仕事しかしてくれない」といった不満が多く、税理士と経営者の間に構造的な課題があることを強く認識しました。
経営者とはじっくりいろいろな話をできたので、ビジネスモデルの勉強もできました。多くの企業を見る中で感じたのは「人を大事にする企業が成長する」ということでした。結局、企業は人でできているので、企業の中にいる人が力を発揮できないと大きくなりません。社長が従業員の給料を下げて搾取したいという会社は、短期的にはうまくいっても長期的には伸びないと思います。企業の中で働いている人が生き生きとした人生を送っているということが、会社に対しても良い影響を与え、継続的な成長につながるはずです。今は開業したばかりで事務所には私1人しかおらず、採用活動を始めたところですが、従業員を雇ったら、人を大切にしながら事務所を運営していきたいと思っています。
―中小企業の税務調査を経験した後、大企業の税務調査にも携わったのですね。
大企業を調査する際には、経営者ではなく担当者と話しましたが、それぞれの担当者が非常に優秀だと感じてきました。ただ、優秀な方が大企業に入る日本の構造を目の当たりにし、スタートアップを盛り上げていきたいという思いも出てきました。ここ30年ぐらい、日本企業の国際的な存在感は低下しています。30年前の企業価値ランキングを見ると、トップ50に日本企業は30社ぐらい入っていましたが、2019年にトップ50に入っている日本企業はトヨタだけです。一方、このランキングの上位にはGAFAをはじめとしたスタートアップが並び、1990年代以降に創業した企業が台頭しています。
―東京国税局に勤務しながら、一橋大学大学院経営管理研究科のMBAコースにも通ったのですね。
はい、アクセラレーターがスタートアップに与える影響を中心に、スタートアップエコシステムについて研究しました。アメリカのシリコンバレーでは、ヒト・モノ・カネが集中し、起業家も集まっており、そこで起業すれば、ある程度事業が成長するような仕組みが構築されています。そして起業家が成長した事業をM&AやIPOで売却し、多額のお金を得た後にエンジェル投資家として新たなスタートアップに投資するといった流れも出てきています。お金、人、優秀な技術などあらゆる要素が組み合わさって事業が拡大していくエコシステムがあることがスタートアップの成長につながっているということを感じました。 日米を比較すると、日本は創業初期の支援が弱いと思っています。起業した直後、最初の資金調達をするまでの期間はお金もなく、人も足りないですよね。特にエンジニアや研究者が起業する場合には、事業計画も作ったことがないという場合がほとんどです。その支援も足りていません。
そこで、私は特にシード・アーリー期のスタートアップに特化して支援をしていますが、ワクワクするし、楽しいですよ。生き生きと仕事をできていると実感します。
「何もない」スタートアップを
一緒に大きくしていきたい
―シード・アーリー期のスタートアップの支援には困難もあると思いますが、どう乗り越えていますか。
シード・アーリー期のスタートアップは「何もない」状態なので、バックオフィスや仕組みの構築から経営計画まで全てに携わらないといけません。大変ですが、やりがいはあります。 スタートアップは売り上げもそんなに立っておらず、外に対する報酬もなかなか支払えない状況ですが、私は一緒にスタートアップを大きくして、一緒にリターンを享受しようというビジネスモデルで考えています。今は事務所としては財政的に厳しい面もありますが、一緒に事業を大きくしていけたら事務所も大きくなれる、というモチベーションがあります。
―事務所を立ち上げてから、壁にぶつかったことはありますか。
ありがたいことにお客様のご紹介をいただくことが多く、現状は計画通りに進んでいます。「最初は赤字になりつつも集客は大丈夫だろう。ただ採用は苦労するだろう」という当初の見立て通りです。それでも、銀行口座の残高が減っていく怖さはありますね。
―計画通りに事業が進んでいる背景は何でしょうか。計画を相当練っていたのですか。
5年くらいかけて開業の準備をし、計画は相当練っていましたね。今は10年単位の計画を作っていますが、数字に縛られると本質を見失ってしまう時があるので、柔軟に見直しています。「こういう理由で売上目標を達成できなかったけれど、それはそれでいいよね」という時もあると思います。本当に自分の成し遂げたいビジョンを実現できるのであれば、数字にこだわらずやっていきたいと思っています。
―港区で開業して良かったことはありますか。
港区の中小企業融資あっせん制度を活用し、低金利で融資を受けることができました。港区の創業・スタートアップ支援事業補助金にも採択していただきました。港区はそうした支援が充実しているので、自分で情報を取りに行くことが重要だと思います。
―今後の展望を教えてください。
アメリカの「Y Combinator」という最も有名なアクセラレーターがあります。私は自分の事務所を「日本のY Combinator」にしたいと思っています。10年後には最低でも100人規模の事務所にして、日本のスタートアップ全部を総合的に支援したいというぐらいの気持ちです。ただ、シード・アーリー期の支援はまだ十分に広がっておらず、スタートアップを支援してもリターンはすぐに受け取ることができません。熱量を持って支援を続けていきたいと思います。
―起業を考えている方へのメッセージをお願いします。
スタートアップがたくさん出てきてほしいという思いはありますが、起業は本当に大変です。売り上げが立たない中で、どんどん人件費や経費が銀行口座から出金される怖さなど、いろんな壁を覚悟した上で起業してほしいです。成し遂げたいビジョンがないと最後までやり抜けないと思います。
ですが、そのビジョンがある程度明確になれば、その後どうすればいいのかは外からアドバイスを受けることができますし、それこそ私に相談していただければと思います。まず、自分が何をやりたいのかを何度も自分に問いかけて、ある程度形にしてみてください。 そして、「失敗しても大丈夫」とも言いたいですね。日本では起業で失敗すると、失敗のレッテルを貼られてしまう傾向がありますが、アメリカだと起業で失敗すると「よくやったね。経験を次に生かして」という勲章のような感じで捉えられる文化があります。失敗を恐れず、でも覚悟をもって起業してみてください。
記事投稿日:2025年1月14日