株式会社Forgers
株式会社Forgers
ECやマニュアルにXR技術を
幅広い業界をアップデート
株式会社Forgers
代表取締役今泉 滉平さん
代表取締役
今泉 滉平さん/Kohei Imaizumi
■経歴
慶應義塾大学経済学部卒業後、上場期のRPAホールディングスにて、法人営業、スタートアップ投資やM&A業務などを担当。2019年にAR/VRスタートアップの創業に執行役員として参画。家具・小売業界や製造・エンタメ業界を中心に延べ数十社のAR/VRかつようを支援。自社SaaS「RITTAI」の責任者も担当し、顧客獲得から製品開発まで全般を管掌、事業の立ち上げを牽引。2023年、株式会社Forgersを創業、立ち上げた「RITTAI」事業の譲渡を受ける。
●コラム
3Dで空間やインテリアをシミュレーション
製造業界やインフラ業界でも活用
―「Forgers」はどのような事業を展開していますか。
私たちは大きく2つの事業を展開しています。1つはAR/VRアプリケーションシステム開発、コンサルティング事業です。
NTTドコモ様やNTT東日本様、トヨタ自動車様など大手企業を中心に、個別のご要望をいただきアプリやシステムを開発し納品します。
ただ、受託開発には時間もコストも膨らみがちです。そこで、手軽にXR技術を企業様が利用できるような形で展開していきたいと思い、取り組んでいるのがSaaS(インターネット上で使えるインストール不要のソフトウェア)事業です。
私たちは3Dや XR(クロスリアリティ。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)など複数の仮想技術の総称)の技術をSaaS形式で月額数万円から、初期費用なくご利用できるよう提供しており様々な業務シーンで使っていただいています。
私たちが提供するSaaSの中で最初にリリースしたのが、ECサイト・カタログ特化型AR/3D導入ツール「RITTAI」です。スマホのカメラ越しに、その場にはない家具を表示して、サイズやカラーが自宅に合うかどうか確かめる「AR機能」をECやカタログ等に手軽にできるサービスで、ニトリ様やダイキン工業様などのECにも導入されています。ネットショップでの買い物であっても、自宅に置くシミュレーションを事前にできるので、お客様に安心して買っていただけます。
この派生サービスとして2024年2月ごろにリリースしたのが、空間やインテリアを3Dでシミュレーションする「RITTAI ROOM」というサービスです。こちらもニトリ様などの家具メーカー様を中心にご利用いただいています。ニトリ様では、店舗スタッフの方に、自宅のインテリアコーディネートを相談できる店舗があります。
そこで、スタッフの方がお客様の間取りを聞いて画面上に3Dで部屋を再現し、そこに家具を置く形で空間をシミュレーションしています。
そして、2024年6月に出した新しいサービスが3Dデジタルマニュアルツール「RITTAI MANUAL」です。製造業やインフラ業、建設業などの現場で、作業内容の3Dマニュアルを表示することができます。
これまで製造業の会社にヒアリングする中で、紙でのマニュアル管理に課題を感じている会社が大半だと感じてきました。直近多くの企業が導入する「動画のマニュアル」も、用途によっては教材としてはオーバスペックだったり、撮影の手間や、「長い動画だと、視聴時間や、ユーザーが知りたい情報に辿り着くのが大変」といったお声をいただきました。そこで、知りたい情報をユーザーが能動的にサクッと確認できるような3Dのマニュアルを提供することでれば、現場で大半の業務は手順などを確認しやすくなると思い「RITTAI MANUAL」を提供し始めたところ、お客様の評判が良く、製造・インフラ・建設などの業界で導入していただけるようになりました。
さらに、2024年12月には「RITTAI SIMULATOR」というサービスをリリースしました。このサービスでは、ソファーの組み合わせやアームの有無などを3Dでシミュレーションできます。お客様はEC内で簡単に家具をカスタマイズして、そのままカートに入れて購入できます。
このように、私たちが提供する空間シミュレーションツールは住宅、製造、インフラといった様々な業界で導入が進んでいます。
―創業は2023年ですが、短い期間で多くのサービスをリリースしてきたのですね。
私がかつて創業に参画したAR/VRスタートアップで立ち上げた「RITTAI」事業を、2023年に創業した「Forgers」で譲受し、それから約1年間で一気に関連サービスを複数リリースしていきました。
2023年10月に「RITTAI」事業を買収した後、2024年2月には「RITTAI ROOM」、6月には「RITTAI MANUAL」をリリースし、「RITTAI SIMULATOR」は12月に提供を開始しました。検討してリリースするまでの期間はいずれも半年ほどです。正社員は現在7人ですが、受託開発とも並行しながらスピード感をもって事業展開を進めています。
前例のない3Dの導入を通じ
産業のアップデートを担う
―今泉さんが XR の分野に注目したきっかけは何でしたか。
私は大学卒業後、ホワイトカラーの業務を自動化するソフトウェア・RPAを提供する会社に入りました。この会社では、Excelへの打ち込みといった定形業務を自動化させるサービスを提供していました。新しい技術を持っている会社が急激な成長スピードで伸びていくのを目の当たりにする中で、次に何をするのがいいかと考えたときに、面白いと思ったのがXRでした。2Dの画像・映像が3D化するという技術はBtoB・BtoC問わず幅広いシーンを変革する可能性を感じました。、海外では徐々に事例やサービスが広まりつつあった中で、国内ではまだ参入する余地があると感じたんです。
そこで知り合いと一緒にAR/VRスタートアップを創業しました。新しい技術がビジネスの世界で受け入れられるのは、売上やコストカットの効果が明確に数字で出てくるときだと思い、まずは販促を XR で支援するプラットフォーム「RITTAI」を作りました。
―XR事業を展開する面白さはどこにありますか。
自分の手で産業のアップデートの一部を担えるという手触り感でしょうか。先行例が少ないからこそ、最初の事例を自分たちで作ることができます。例えばニトリ様含め、多数の家具販売企業様への「RITTAI」の導入を通して、「家具はARで事前に自宅でサイズ確認できるもの」という、新しい家具購入のスタンダードを生み出す可能性があると感じています。
「RITTAI MANUAL」では、それまで紙のマニュアルを使っていた中で、2Dを超え、いきなり3Dのマニュアルを使うようになるという大幅な業務のアップデートを自分たちでが担える感覚があります。そうした中でお客様から「こんなものが欲しかった」「3Dマニュアルが非常に見やすい」というお声をいただくことは、大きなやりがいになっています。
―一方で大変さを感じることはありますか。
お客様に接触してから受注するまでの検討期間が長いことですね。
そもそもXRを 使うというアイデアは、日常業務の中ではなかなか生まれてきません。例えば「経理を自動化したい」というニーズは当たり前にあると思いますが、「3Dのマニュアルを作りたい」と思う人は、まだあまりいないのではないでしょうか。ニーズがまだあまり顕在化していないだけに、受け入れてくださるのはチャレンジングな方々や新しいモノが好きな方々が中心で、それほど多くありません。
自分たちのツールが他の動画や画像と変わらないぐらいのコストで作れるということを伝えていきたいと思います。
結び付けられる機能のアイデアが増え
構想が具体化していく
―今泉さんがこれまでのキャリアで培ったスキルは、今の会社経営にどうつながっていますか。
新卒ではRPAホールディングス(現・オープングループ株式会社)に入社し、1年ほど正社員として営業や採用を行ったのち、4年半の間業務委託として採用やコーポレートベンチャーキャピタルの投資担当を務めていました。並行して、4年半の間、AR/VRスタートアップの執行役員として「RITTAI」事業の立ち上げや受託開発事業の立ち上げを行いました。
携わる業務・事業が幅広かった分、営業、人事、開発、経営企画、マーケティングなど幅広い業務の基礎知識を広く浅く付けられたと思います。
―そして2023年に「Forgers」を創業したのですね。
2023年、AR/VRスタートアップのメンバーとともに「Forgers」を立ち上げました。それまでに立ち上げていた「RITTAI」事業を自分たちでドライブし、より大きくしていきたいと思ったからです。
また、大きなマーケットである建設業界や製造業界にも本格的に参入したいと思い「Forgers」を立ち上げました。3Dデータは様々な産業で一層の価値を生み出すと信じています。
―起業前と起業後で、経営への意識は変わりましたか。
多くのお客様にサービスを使っていただく機会が増え、当初の展望がより具体化されました。
だから、当初よりも今の方が楽しいと思います。当初はぼんやりとした構想しかありませんでしたが、今では、例えば「『RITTAI MANUAL』は設備点検に使うから、設備のデータやメンテナンスのログの集約もできるかもしれない」という、当初は想定できていなかった機能・ユースケースが生まれています。今後も1つ1つのサービスでやりたいことが増えてきています。
XR技術が様々な業界で当たり前に
使われる世の中を目指す
―組織を運営するうえで心がけていることはありますか。
お客様ありきでビジネスを作るということを口酸っぱく言っています。お客様のニーズがないものは作らず、ニーズがあるもの、受け入れられるものを作るということは、会社のポリシーです。
それから、ワクワクするようなプロジェクトを作るということも意識しています。メンバーがワクワクして主体性を持てるようなプロジェクトを生み出していきたいですね。メンバーの一人ひとりが優秀で、しっかりとプロジェクトの土台を作れるので、私はどちらかというと大きな構想を作る役割を担いたいです。お客様を巻き込んで新しいムーブメントを起こしていきたいと思っています。
―代表取締役や取締役COOといった会社内での役割はどのように決めていきましたか。
AR/VRスタートアップで「RITTAI」事業を先導してきた私が代表取締役になることにしました。取締役COOの田中はサポート力が非常に高く私の手が回らない様々な仕事を積極的にしてくれますし、メンバーの面倒見も良く、COO適任だと強く感じます。
私1人だったら起業していませんでしたね。開発力や開発組織作りに長けたCTO長沼がいなければ、良いプロダクトは作れませんし、田中がいてくれる安心感も大きかったです。技術的な意味でも精神的な意味でも、起業するときに仲間の存在は不可欠でした。
―港区に登記をした理由や、良かったことを教えてください。
安いオフィスが見つかったからというのもありますが、電車のアクセスが良く、どこに行くにも便利な場所だからです。
また、港区立産業振興センターでは3Dプリンターが安く使えるので、弊社のメンバーが利用したこともありました。ほかにも各種支援が充実しているので、調べて活用していきたいと思っています。
―XR 業界の今後や、会社の展望をどう見ていますか。
住宅や家具はもちろん、製造やインフラなどの業界でも、皆さんが当たり前のようにXR技術を使っていて、その便利さや効率の良さ、触る楽しさが生活の一部になっているような状態を作りたいですね。
ただ私たちは正直、XR への執着はそれほどありません。XRに限らず新しい技術があれば、どんどん使っていければと考えています。今一番面白いと思っているのが「RITTAI」というだけで、もっと面白い技術が出てきたときには組み込んだり、また新しいサービスを作ったりしていきたいです。
メタバースなどを想起しがちな「XR」というワードの割には、私たちのサービスにはあまり派手さはありませんが、多くの企業様・ユーザー様の業務や生活をを便利に、楽しくしていければと思います。
―起業を考えている方に向けたメッセージをお願いします。
正直なところ、本当に必要に迫られなければ、起業しない方が良いと思います。
ただ、起業するのであれば、皆さんもいろんな志を持ってチャレンジすると思います。私も同じように志を持って起業したので、お互い頑張っていきましょう。
記事投稿日:2025年3月27日