エピストラ株式会社
エピストラ株式会社
AIを使って研究開発を加速させたい。
エピストラ株式会社
代表取締役CEO小澤 陽介さん
「AIとロボットで研究開発を加速する」技術を開発するテクノロジーカンパニー
代表取締役CEO
小澤 陽介さん
Yosuke Ozawa
[プロフィール]
慶應義塾大学でバイオインフォマティクスを学びIBM Researchで研究員を務める。その後渡英してスタートアップ企業Ecreboの基幹システムと9件の根幹特許を一人で書き上げ、時価総額100億円以上にまで急成長させた。帰国した後は産総研技術移転ベンチャーRBI株式会社で実験ロボット「まほろ」の情報システム開発を率いた後、エピストラを創業。数理最適化、データベース、計算生物学分野で原著論文。
人類のより良い未来のためにはライフサイエンス実験が必要である。
“人間が作れる一番大きな成果は知識”だと、元研究者である私は考えています。人類全体で知識 を生産し、共有する仕組みを体系化したものが サイエンス(科学 ) だとすると、上手に活用することで、サイエンスを今のスピードよりも早く進めるポテンシャルを持っているのがデータ解析・AI技術です。最先端のデータ解析・AI 技術によって、研究開発期間を効率化し、サイエンスの発展を加速するためにEpistraという会社を作りました。
弊社の主な事業内容としては、AIによる自動ライフサイエンス(生命科学)実験最適化システムの開発とそれを利用したコンサルティングサービスになります。
まず、ライフサイエンス実験とは何かというと、一般には生命科学上の仮説を検証するための実験のことを言いますが、医薬品や有用物質の生産にも応用されています。
例えば、バイオ医薬品(タンパク質や酵素、糖類など)や、培養肉のような食品、バイオ燃料など、化学合成で 作れないものは、生物を利用して作られています。ただ、こういったものに関して、低コストで効率的に作れないと工業製品としては成り立たないという課題があります。
例えば現在、アメリカのホールフーズマーケットでは培養肉が販売されていますが、ものすごく高価なことで有名ですよね。日本の培養肉企業であるインテグリカルチャーは、次の5年で 100分の1以下に削減することを目標に掲げています(2022/12時点で100gあたり約3万円かかっているのを2028/10までに100gあたり 113円にする)。つまり、代替したい既製品に比べて十分に競争力のあるコストで効率的に作れない限りは、普通のお肉を培養肉に置き換えるのは難しいということなんです。
バイオ燃料に関しても同じで、化石燃料がリッター100円程度のコストであるところに、現在のバイオプロセスではリッター1万円のコストを要しています。化石燃料の価格は近年急上昇しているとはいえまだまだ大きな差があるのが現状です。
ですから、既存品のコストと比較可能なレベルまでコストを下げ、効率的に多くの燃料や培養肉を作るためにより優れた生産・実験条件を見つける必要があって、これからも多くの実験を行うことが必要になってきます。燃料や培養肉を作るためのより優れた条件を、AIを活用したライフサイエンス実験によって効率良く見つけることができれば、人類の未来はもっともっと開けていくのではないかと考えています。
生命科学・計算機科学・ソフトウェア工学という3つの専門性を持ったチームが強み。
最先端のデータ解析・AI 技術によって研究開発期間を短縮するしくみを作るためには、計算機科学と生命科学両方の専門性を持った人材が必要になります。その点、弊社は創業者を含め、社員全員が生命科学と計算機科学の学位を持っているため、そこは最大の強みといえます。
まず私自身の経歴をお話しますと、慶應義塾大学でバイオインフォマティックスの学位(博士)を取得していまして、IBM Researchにいたので、様々なIT業界の企業や大学との繋がりを持っています。
また、イギリスにてスタートアップ企業Ecreboの基幹システムと9件の根幹特許を一人で書き上げ、時価総額100億円以上にまで急成長させた実績(Financial Timesの急成長ランキングで全欧83位2012-15)とライフサイエンスの知見もあります。
それから、共同創業者で技術顧問の髙橋恒一は、理化学研究所生命機能科学研究センターの理研のチームリーダーで、世界初の全細胞シミュレータE-Cellを開発し、ロボティックバイオロジーや細胞シミュレーション、脳型人工知能などの分野で論文などを書いています。
もうひとり共同創業者の櫻田剛史は、慶應義塾大学でシステム生物学を学び、在学中からソフトウエア開発のプロジェクトマネジメントで手腕を発揮してきました。卒業後は 、IT企業で電子決済システムの開発運用、開発部門の統括、情報セキュリティや新会社立ち上げビジネス領域でのマネジメント経験を積んでいます。
このように、「生命科学」「計算機科学」「ソフトウェア工学」の各領域で多くの実績をもっているため、高い専門性を持ったチームがいることが弊社の信用にも繋がっているかと思います。創業者3名の経歴の詳細は弊社のホームページに掲載されていますので、ご興味のある方はぜひそちらもご覧ください。
AIを使った培養技術で“匠の技”を再現可能に。
弊社の顧客は大学や研究機関、製薬会社や病院、工業、計測機器や実験装置メーカーなど様々ですが、具体的なご要望の例としては、品質や生産量を増やすための実験条件を効率的に見つけたいというものが多いです。また、もう少し踏み込んだ事例では、いわゆるQuality by Designに関するもので、特定の品質を満たすためには、実験にかかわるさまざまな変数(温度、pH、撹拌速度、培地濃度など)をどの範囲に制御すれば良いかといったご要望も増えています。
最初にお話したように、バイオ産業は結果が安定しないところが難点です。
たくさんの数の細胞を培養して作るのですが、人間と同じで細胞も一つ一つ違うんですね。ですから、それらの細胞を同じプロセスで培養しても、結果的に生産量や品質にバラつきが出てしまいます。そのバラつきが悪い方にでると、生産量が減り高コストになってしまう。
このように複雑な細胞を理解し、培養を成功させるためには人間が自分で考えるよりもAIを使った方が効率が良いので、 弊社はご依頼いただいた企業様にAIを活用したソリューションを提供しています。
AIによる自動実験的最適化システムを使うと、生産量を増やしたり、品質をあげる条件を人間よりも速く見つけることが可能となります。過去には理研との共同研究でiPS細胞から、網膜色素上皮細胞への分化効率を大きく向上させ、さらに研究開発期間も大きく短縮した実績もあります(国際論文誌採択済み:https://www.riken.jp/press/2022/20220628_2/)。
細胞培養というのは、専門の技術者が手作業で行う“職人技”なので、誰がやるのかで結果に大きな差が出てしまいます。だからといって技術者 全員が同じマニュアル通りにやっても全員が100点の結果はだせない厳しい世界ですから、技術者を多く雇用したところで効率が上がるわけではないんですね。そして“匠の技”を持つ技術者は、伝統工芸と同じように他の人にその技術を伝えるのが大変難しいという問題もある。
ところが、人間のように2本の腕を持ったロボットを駆使すれば“匠の技”が再現できるんです。そこでも、当社が開発したAIが使われています。
細胞の自動運転技術を作ることが目標 。
将来的にはAIと測定技術を組み合わせて、一つ一つの細胞の状態を認識した上でどのように制御していけば良いのかといういわば細胞の自動運転技術をつくって行きたいと考えています。細胞という複雑なものをつかいこなすことで、今まで作れなかった医薬品や製品をより効率的につくることが可能になり、新しい展開が生まれていくと期待しています。そのような技術開発の一環として、「細胞培養に用いる培養条件最適化ソリューション」を京都にある島津製作所さんと共同開発しています。開発中のソリューションは質量分析器で分析した“培養上清の成分パターンか細胞の状態を推定し、条件検討をさらに効率化するもので、2024年中の製品化を目指しています。
記事投稿日:2023年3月8日