株式会社wead
株式会社wead
「捨てる、を捨てる」
ゴミから新たな資源を生み出す
株式会社wead
代表取締役井川 桃花さん
代表取締役
井川 桃花さん/Momoka Ikawa
■経歴
オーストラリアのタスマニア大学を卒業後、畜産総合メーカーに入社。大学と共同研究でコーヒー粕に関する研究を実施。「畜産業」「農業」「コーヒー産業」といった様々な産業で例外なく多くの廃棄物が排出され、それらが使われることなく燃やされたり、埋められたりしている実態を知る。廃棄物を活用し、ユーザーや社会が求める商品を創りたいという想から、株式会社weadを設立。
ゴミを資源として
新しい商品に生まれ変わらせる
―「株式会社wead」は、どのような企業ですか。
弊社は、身近なゴミを資源として新しいものに生まれ変わらせるためのハンズオン支援や、研究開発サポートなどのサービスを提供しています。「捨てる、を捨てる」というミッションを掲げ、ゴミから新しい商品やサービスを作ることで、ゴミを捨てるという概念自体を捨てていきたいと思っています。将来的には「捨てる、を捨てる」という価値観を世界に向けて発信していきたいです。
―具体的にはどのような事業を展開していますか。
弊社の事業は、最初は畜産の資材を作るという少しマニアックな分野から始まりました。特に今、畜産業では資材が高くなっています。円安で輸入資材が高騰しているうえ、そもそも手に入らなくなっている資材もある中で、畜産動物がベッドとして使う敷料や、エサである飼料を国内のゴミから作れないかと考え、研究所や大学と共同研究しながら開発してきました。 畜産の分野に限らず、一般的なゴミは分解しづらかったり、分解に時間がかかったりするため、焼却や埋め立てがされているのが現状です。ですから、ゴミを早く分解する資材があれば面白いと考え、紙やプラスチックの分解を促進し、その後に堆肥などに変えていける資材「greevy」を開発しました。
それから、日本ではお米のもみ殻が年間200万トンほど廃棄されているのですが、この処分も簡単ではありません。ここでも「greevy」を活用することで、3~5年くらいかかっていたもみ殻の分解が約40時間でできることがわかりました。分解した後のもみ殻はただ堆肥化するだけでなく、農家さんにとってもこの堆肥を使うことで病気の予防や稲の成長の促進、資材コストの削減という検証をすでに成功させました。 今後は、自治体や企業とともに、廃棄物からコンクリートを作ったり、使用済みの紙おむつを燃料にしたりといった研究を進めていく予定です。
―研究するゴミの種類はどのように決めているのですか。
今多いのは、企業から「こういうゴミが出るのですが、何か一緒に作れませんか」といった相談を受けるケースです。 企業が抱えているゴミの課題を解決する事業を始めたのは今年の夏ぐらいからです。実現に向けては約半年間かけて安全性やニーズを調査しています。
―それぞれのプロジェクトのスパンが長そうですが、どのようにマネタイズしていますか。
企業からのゴミに関する課題の相談対応、大学などとの共同研究のコラボレーションの支援をはじめ、様々な形でのマネタイズを行っています。それから、飼料や畜産の資材を直接畜産業者に販売したり、「greevy」と発酵装置をリースしたりと、事業の横展開も進めています。
オーストラリアの大学で
日本の環境問題への無関心に気づく
―起業のきっかけを教えてください。
もともと環境問題に興味を抱いたきっかけは、オーストラリアのタスマニア大学での授業でした。タスマニア大学に入学したのは、中学生の時に1ヶ月くらい留学したオーストラリアで、好きな動物に関する勉強をしたかったからです。 ある日、タスマニア大学の植物学の授業で、環境問題に関するディスカッションをしました。私は当時、環境問題に対して興味もなく、ネットで調べた課題や対策をまとめて発表したのですが、オーストラリアの学生は私とは比べものにならないくらい知識や問題意識があったんです。
例えば、私が海面上昇に対してできることとして「温室効果ガスを出さないような取り組みをする」ということを言っても、オーストラリアの学生は、取り組みをするためにどういうことができるのかということまで話し合っていました。 その時ちょうど、気候変動対策が後退している国に贈られる「化石賞」を日本が何年も連続で受賞しているというニュースも耳にし、絶望しました。ですが、だからこそ環境後進国と言われるような日本から何か面白い、環境に特化した商品やサービスを打ち出していきたいと漠然と思いました。
―当初はオーストラリアに残るつもりでしたが、日本に戻ることにしたのですね。
日本に戻って、畜産総合メーカーに入社しました。ほかの会社への就職も考えましたが、このときその会社は、コーヒーかすを混ぜて嫌なにおいを低減させた有機肥料を作る研究を始めていたので、環境問題に取り組みたいという私の思いにも合うと思いました。 入社後は、畜舎内の設備の入れ替えやメンテナンスといった現場の仕事に携わり、第一次産業の大変さを肌で感じました。
―その後、「wead」を起業しました。
前職では2年半在籍し、その間に大学との共同研究や、畜産業、農業、食品産業といった分野での新規事業の立ち上げを経験できました。 その中で畜産業や食品などの分野にこだわらず、幅広い産業の企業が排出するゴミから新しいものを作り出したいと思い、本格的に起業を考え始めました。
愛媛と東京の産業や人を
つなぎ合わせたビジネスを展開
―ご自身で起業し経営することで気づいたこと、得られたことはありますか。
「wead」の本社は愛媛にありますが、東京にも拠点を設けたことで、幅広い業種の方と話をしたり、より充実したサポートを受けたりできるようになりました。こうしたことは、自分で起業してよかったと思う点です。 地方にしかない産業もあれば、都市部だからこそできる産業もあります。愛媛と東京の双方に拠点を置くことで、その2つをつなぎ合わせて事業を展開できます。 私自身が地方で生まれ育ったこともあり、私の東京でのネットワークがあったからこそ生まれた新規事業を地方に還元し、地方を活性化していきたいとも思っています。
―2023年8月に愛媛で「wead」を設立し、その後東京にも拠点を設けたのですね。
最初は起業の方法が全然わからず、愛媛県にはイチからサポートしてもらいました。四国のビジネスコンテストで受賞したり、ネットワークの作り方や協業の仕方を学んだりして、2024年4月ごろからは東京で事業を始めました。 東京では港区立産業振興センターを拠点にし、主に打ち合わせで使っています。いろんな企業から近い場所にあり、便利ですね。センターで行われた女性起業家向けのピッチにも出て準グランプリを受賞したり、アクセラレーターに参加したりして、都内でのネットワークも広がっていきました。
私は日本の大学を出ていなかったこともあり、ネットワーク作りには課題を感じていたのですが、センターでピッチなどの情報を得て、実際に参加することで人脈が広がったので本当によかったです。
―ピッチやアクセラレーターに参加する際はどんなことを心がけていましたか。
特にピッチでは「wead」という会社の面白さを伝え、「この会社と一緒に新しい事業をしたい」と思っていただくことを大切にしていました。ただ「こういうものを作れます」と紹介するのではなく、研究機関と一緒にエビデンスも確かめていることを伝えることで「この会社なら安心して新しい事業を進められる」と思っていただけることを目指しました。
―実際にピッチなどに参加した手ごたえはいかがでしたか。
最初に出た四国でのピッチで最優秀賞に選ばれたことで、「こういう事業を面白いと思ってくれる人がいるんだ」と、自信がつきました。初めは不安しかありませんでしたが、ピッチなどに積極的に出てみたからこそ得られた気づきがありました。
コストをかけない、取り組みやすい
サステナブルビジネスをアピール
―会社を経営する中で、心がけていること、大切にしていることはありますか。
「捨てる、を捨てる」というミッションは曲げないようにしています。ただ、他の方や企業から聞くアドバイスや知識は、フレキシブルに吸収して事業に生かすようにしています。
―サステナブルビジネスを広く展開していくためのポイントをどう考えていますか。
環境先進国ではない日本で、サステナブル系のビジネスを他国と同じように展開するのは難しい面もあります。だからこそ弊社が大切にしていることは、顧客となる企業にとって莫大なコストを必要としないものを提供するということです。
こちらが一工夫するだけで、コストをかけずに一緒にサステナビリティに取り組んでいけると伝えることができます。
例えば、スーパーが弊社とコラボレーションすることで、毎日排出している食品のゴミを10分の1にまで減らせれば、ゴミの処理コストが10分の1になります。それはスーパーにとっても大きなメリットですよね。そのようにコストを掛けずサステナビリティに取り組めるということや、むしろサステナビリティに取り組むことでコストを削減できるということを積極的にアピールしていきたいと思っています。
「捨てる、を捨てる」という世界の実現に向けた達成度は、まだ1%にも満たないと感じています。協力してくださる企業の皆さんとともに走り出している最中ですので、まだ達成できていないこと、これから解決していきたいことは、ゴミだけに山積みです。
―環境先進国ではないとされる日本ですが、サステナブルビジネスを展開するうえで、日本企業からの反応はどう感じましたか。
私が予想していたよりも反応は多かったですね。もっと後回しにされるかと思っていましたが、弊社が大事にしている、取り組みやすいサステナブルビジネスに共感してくださる企業は多いように感じました。
―現在、感じている課題はありますか。
周りの方からは「早く右腕を作りなさい」と言われます。バックオフィスのメンバーやアドバイザーは固めているのですが、私の右腕となる人をまだ見つけられていないことが課題ですね。
今、北海道や沖縄など各地の企業からお仕事の話をいただいているので、1人で事業を進めていくのではなく、同じパッション、スピード感をもって事業を進めてくれるような右腕がいるといいなと思っています。私が猪突猛進型の人間なので、冷静に考えてくれる右腕がいると、もっとアイデアの幅も広げながら、効率よく事業展開できるのではないかと思っています。
―長期的な夢を教えてください。
将来の目標の一つは、「捨てる、を捨てる」というコンセプトや商品、サービスを日本から世界に発信していくことですね。また、「greevy」を宇宙に持っていけないかという壮大な事業展開も思い浮かべています。
宇宙ステーションの中はにおいがきついらしいので、「greevy」と発酵装置を設置して、宇宙ステーションの中で排出される、ありとあらゆるゴミを分解して堆肥化して、例えば火星で野菜を育てられるようになったら面白いな、と妄想しています。そういったことができると近い将来、火星に人類が住めるかもしれませんよね。
―起業を考えている人に向けてメッセージをお願いします。
下調べは大事だということでしょうか。私自身、突っ走っていくタイプではありますが、それまでの準備は大事にしています。商品を作って誰に届けるか、どれくらいの規模のマーケットに対してアプローチするか、といったことは丁寧に調べています。その際には、ネット上でのリサーチだけでなく、現地の業者へのヒアリングもしています。
「wead」は起業して1年半しか経ってないベンチャーですが、ほかの企業が一緒に仕事をしてくれるのはありがたいことです。そんな経験をできるのは起業の魅力です。失敗を恐れず、準備をしっかりしたうえで起業してみるといいと思います。
記事投稿日:2025年3月19日