株式会社トリプル・ウィン
株式会社トリプル・ウィン
勤務先だったJALの経営破綻を機に
女性支援、企業研修事業の道へ
株式会社トリプル・ウィン
代表取締役森 裕美

代表取締役
森 裕美さん/Yumi Mori
株)日本航空インターナショナルにて30年以上にわたり、国際線客室責任者および客室マネジャー(管理職)として勤務。首相特別便への乗務をはじめ、機内サービスにおいてCS社長表彰を受賞するなど、高品質なサービス提供に従事。
また、産後復帰を目指す乗務員の再教育、新人訓練、リーダー研修を担当し、人材育成および乗務員の品質管理においても豊富な実績を持つ。
早期退職後はキャリアコンサルタントとして経験を積み、その後、個々のニーズに寄り添い成果につなげる研修会社を設立。参加者が納得感を持って主体的に学び、その学びを確実に習慣化できる「変化が見える」研修プログラムを構築。
新入社員から管理職までを対象とした階層別教育体系を確立し、多くの企業から高い評価と継続的な依頼を得ている。
現在は、グローバルマナースクール(三田・横浜)を主宰。オンライン講座も展開し、「一生もののスキルとしてのコミュニケーションマナー」を広く伝えるとともに、多角的な人材育成を担う講師の育成にも力を注いでいる。
勤務先だったJALの経営破綻を機に
女性支援への思いを抱き起業
―「株式会社トリプル・ウィン」を設立したきっかけは何ですか。
設立のきっかけは、2010年に当時の日本航空(JAL)が経営破綻したことです。当時は管理職を務めていたのですが、多くの優秀な仲間が職を離れるのを目の当たりにし、大変な思いを分かち合いました。そこで、JALを辞めた仲間3人とともに、再就職に苦労する女性たちの力になりたいという思いからキャリアコンサルタントの資格を取得し、会社を立ち上げました。
私たちが大切にしているのは、「人が人として生活を送る中で、常に自らの成長を実感し、明るく楽しく艶やかに、かつ誇らしく生きられる社会の実現を目指すこと」です。人と人との出会いや対話のクオリティーを高めるため、マナーやコミュニケーションの効果的なノウハウを提供することによって、たくさんの人生に、たくさんのチャンスを生み出すことに貢献していきます。
当初の事業は、ハローワークの求職者支援訓練などでマナーやコミュニケーションのテキスト作成や講師を務めることから始まりました。その後、医療事務や介護ヘルパーなどの派遣社員のスキルアップ研修や、専門学校でのマナー講義、英語・パソコン講習へとニーズが広がり、現在では23校もの学校で30名以上の講師が登壇する規模に成長しています。お客様は期待して連絡をくださっているので、基本的に依頼は断らないようにしています。
―現在の研修事業にはどのような思いを込めているのでしょうか。
最初は「女性が家庭、地域、社会で活躍できるための支援」を主眼に置いていました。しかし活動を続ける中で、現場のストレスやクレームの多くは上司との関係性に起因するということに気づいたのです。働く人の働きやすさを実現するには、現場のスタッフだけでなく、評価者である上司のコミュニケーション力向上が不可欠であると確信し、現在では上司向けの研修も提供しています。
大企業でも、新入社員研修はあっても2年目や3年目の社員への研修が不足しているところは多いです。管理職になる直前まで研修がないようなところもめずらしくありません。すると、いい先輩に出会えなかった社員は負担が大きく、会社にとってもリーダーシップを発揮できる人材の欠如に繋がりかねません。そこで、新入社員から管理職までの階層別研修も幅広く展開しています。

何事にも本気に取り組む精神が
評判を呼び、提携先が増加
―専門学校の教育から企業の階層別研修まで、これほど多岐にわたるサービスを展開できる背景には、どのような社内リソースがあるのでしょうか。
弊社は元乗務員が中心ということもあり、講師は全体的に自己啓発への意識が高く、何事にも真面目に取り組む人たちばかりです。乗務員時代からキャリアコンサルタントや宅建、テーブルマナーなどの資格を取得し、今もなお毎年新しい資格に挑戦している人も多いです。語学に関しても、外国語大学で中国語を学んだ人、アメリカやロンドンに住んでいた人など、多種多様な人材がいることでサービス内容が広がっています。一つ一つの仕事に真剣に取り組むので、それが評判を呼び、提携先も増えていきました。
ほかにも、専門学校へ入校する外国人留学生向けの日本語補習校の講師も派遣しています。建設系や流通系、介護系などで働く外国人と日本人上司の意識合わせの研修も提供していますし、幼稚園や保育園のスタッフ研修も好評です。
―ほかの研修会社と比較して、トリプル・ウィンならではの強みは何ですか。
最大の強みは、講師が全員自社養成であることです。ほかの大手研修会社は外部講師に委託することがよくあるようですが、弊社では自社で育成した講師のみが登壇します。月に1度の全講師が集まっての講師会・勉強会を通してハラスメントやメンタルヘルス、外国人向けのビジネスマナー研修などの最新事例を共有し、講師の質を維持・向上させています。
講師には一般・リーダー・チーフ・トップといった昇格制度を設け、資格取得や研修実績に基づいた明確な評価システムも構築しています。
―研修の内容において、特にこだわっている点は何でしょうか。
特にこだわっているポイントは「知っていること」を「できること」に、さらには習慣化して仕事に生かすことができるレベルまで引き上げる徹底的な実践主義です。「いい話を聞いた」で終わらせないよう、時にはしつこく熱心に指導します。

思いやりの可視化のため
達成できる目標を設定
―森さんが、コミュニケーションやマナーに関して大切だと考えていることを教えてください。
コミュニケーションやマナーにおいて最も重要なことは、思いやりを可視化することです。心で思っているだけでは相手に伝わらないため、研修では伝わる形にすることを徹底して強調しています。
信頼感は視覚的な情報に左右されます。例えば、胸を開いた姿勢を保つことで、仕事への前向きな姿勢や自信を表現できます。自信がなさそうに見えることは大きな損失となるので、立ち居振る舞いを通じて安心感を与えることが不可欠です。
ほかにも、職場において特に注意すべきことは、仕事に集中している時の「真顔」です。本人は無意識でも、周囲に威圧感や恐怖心を与えてしまうことがあります。誰かに話しかけられた際には、自分が今怖い顔をしているかもしれないと自覚し、意識的に表情を和らげることが大切です。笑顔が難しくても、目尻などの一部に気を配るだけで、相手が話しやすい雰囲気を作ることができます。
上司の雰囲気によって、会社の雰囲気は大きく変わります。上司に話しかけづらい雰囲気だと、何かあった際に報告しにくいと感じ、それが後々大きなトラブルになることもあるのです。
―思いを「可視化」するという行動を着実に実践できるようになるため、研修の中で工夫していることはありますか。
受講者がそれぞれ記入するアクションプランシートを用いています。これは、研修での学びを単なるスローガンで終わらせないためのツールです。受講者の皆さんには、「笑顔を意識する」といった曖昧な目標ではなく、「朝の歯磨きの時に笑顔の練習をする」「1日3回は振り返って挨拶する」といった、具体的かつ数値化された目標を立てていただきます。
達成できる目標を設定することで、日々の仕事の中で自身の意識を高めることができ、習慣化することを促します。
若者・外国人も
安心して働ける職場環境を
―最近の若手社員の傾向については、どうお考えでしょうか。
リクルートの意識調査データによると、過去10年で「成長したい」「貢献したい」という意欲は維持されているものの、「競争したくない」「失敗を恐れる」という傾向が強まっています。若い世代が働きたいと思う職場の特徴は、お互いに助け合うことができ、個性を尊重している職場です。
だからこそ、彼らは上司に「一人ひとりに対して丁寧に指導してほしい」「自分の意見に耳を傾けてほしい」「良い仕事を褒めてほしい」という期待が強いです。背中を見て覚えろという古い教育スタイルはもう通用しないことを、データを示して上司の方に研修で伝えています。
若い世代が安心して働ける職場環境をつくらなければ、品質管理や生産性の向上を見込むことができず、離職が増える結果になるでしょう。商品・サービスは立派でも、それに携わる人によって、価値は上下するので、人材育成・職場環境の整備は企業の未来を左右するのではないでしょうか。
―職場環境の整備は大事ですよね。最近よく話題に上がっているハラスメントについては、管理職の方にどのようなアドバイスをしていますか。
多くの方は悪気がないものの、ハラスメントのグレーゾーンを理解していないがために、行きすぎた言動に踏み込んでしまいます。例えば、安全に関わる現場で「何をやっているんだ!」と叱ること自体はハラスメントではなく、必要な指導です。しかし、問題なのは「バカ野郎」といった追加の一言であると研修で話し、ハラスメントであるかどうかについて明確に線引きしています。
―最近では外国人労働者が増えていますが、企業側にはどのような姿勢が求められるのでしょうか。
お互いの文化や背景を知らないことが、差別意識やミスコミュニケーションにつながるので、まずはお互いを知ろうと思うことが大事です。
そのためにも企業、労働者ともに絶えずコミュニケーションは求められています。成功事例として、工場内の至るところにモニターを設置し、共有事項を多言語で表示している企業が挙げられます。「言った・言っていない」のミスコミュニケーションが減り、外国人労働者の定着率も向上したのです。
たくさんの国からわざわざ日本を選んでくださった外国人労働者に「日本に来てがっかりした」と思われないよう、受け入れ側の意識改革は非常に重要です。

社員の再教育経験が
上司向け研修のきっかけに
―JAL時代の経験は、現在の仕事にどのように生かされていますか。
客室乗務員としての経験すべてが今に繋がっていますが、特に社員のマネジメントと教育に携わった経験は、現在の活動の大きな土台となっています。当時、客室乗務員の評価の一つに品質評価があり、AからEの5段階で運用されており、私は再教育が必要とされるD・Eランクの社員への指導を担当していたのです。
対象となる方々の大半は、何らかの原因でモチベーションが下がり、自己肯定感も低い状態でした。研修では、こうした社員の心の絡まりを解きほぐしながら、もう一度「乗務員になりたい」と願っていた当初の自分を思い出してもらい、楽しく働きましょうと語りかけます。しかし、現場に戻って3日も経つと、上司との相性などの要因で、再教育の効果が薄れてしまう現実を目の当たりにしました。だからこそ、現場の上司による部下のモチベーション管理が何より重要であるという考えに至り、今実施している上司向けの研修へと繋がっているのです。
現在は主に会社経営に注力していますが、産休から復帰される方向けの研修も継続して担当しています。これもJAL時代にマネージャーとして復帰研修を受け持っていた経験があるからです。研修では、当たり前のことですが、周囲の方々への感謝の気持ちを忘れないことが一番大切だと伝えています。
―経営者として、大変だと感じたことや、いかにそれを乗り越えてきたのかについて教えてください。
現代は誰もが様々な事情を抱えながら働いています。お客様にもお伝えしていることですが、弊社も従業員満足(ES)が顧客満足(CS)にも繋がるということを真摯に受け止め、講師の声を細やかに聴く会社でありたいと考えています。経営者として最も苦労し、かつ大切にしているのは、お客様のニーズにベストな形でお応えすることと、講師が個々のライフスタイルに合わせて、無理なく高いモチベーションで全力で取り組めることを両立した適材適所の実現です。
―港区に拠点を置いている理由や、地域への思いを聞かせてください。
港区は緑が多く、ビジネス一辺倒ではない、あたたかく落ち着いた雰囲気があります。港区産業振興センターなどの施設はミーティングの時などに積極的に利用しています。
―今後の事業展望や、これから起業を目指す方へのメッセージを教えてください。
私たちは今後も「働く人」「会社」「社会」の三方が幸せになる活動を地道に続けていきたいと思っています。
私は、女性が再就職するときに何かプラスになるようなサービスを提供したいと考え、キャリアカウンセラーの資格を取得し、ビジネスを始めました。そこから周囲の方とのつながりで事業が拡大し、今に至っています。起業を目指す方には、「誰かのためになることであれば、その事業は必ず成功する」というメッセージを送りたいですね。
周りの方とのご縁を大切にし、誰かの役に立ちたいという純粋な思いから始めることが、結果として事業を広げていく近道であると思います。

記事投稿日:2026年3月23日


