株式会社Qand

株式会社Qand
大好きな「謎解き」で
チームビルディング研修を提供

青木 玄さん

株式会社Qand
代表取締役青木 玄さん

 

株式会社Qand
代表取締役
青木 玄さん/Gen Aoki
■経歴
東京大学経済学部卒業。新卒でIPOしたてのソフトバンクに入社、営業として3年半勤務。独立し店舗向けのコンサルタントを経て、複数の企業で働く。ベンチャー・リンク勤務時に、女性向けフィットネスクラブカーブスを起ち上げる。40歳で独立し、新規事業コンサルタントとして10年間いろんな企業に参画。近年では自身でも複数のプロダクト事業を手掛けつつ、20以上の様々なオリジナルワークショップを企画実施。2023年5月末にワークショップ型研修の発展形として株式会社Qandを創業。

 

謎解きでチームビルディング研修
参加者の相互理解を深める

 

―「Qand」はどんな事業を展開する会社ですか。

 

私たちは2023年5月に創業した、企業の人材開発、組織開発を支援している会社です。「“楽しい”が人と組織に活力を与える」というミッションを掲げているように、「楽しい」研修を打ち出しています。研修は普通、あまり楽しくないものだと思いますが、人が変わったり成長したりするときには、前のめりになって熱中することが大事です。私たちはそんな「楽しい」という気持ちを原動力に、人や組織を変えていこうと思っています。

 

研修のテーマはチームビルディングから、ミッション・ビジョン・バリューの浸透やリーダーシップ、主体性の育成までさまざまです。どの研修でもゲームやアクティブラーニングを活用していて、こちらから一方的に何かを教えるということはほとんどありません。それぞれの社員の可能性をできる限り引き出すことを目指しています。

 

 

―パズルや推理などを取り入れた「謎解きチームビルディング」という研修がありますね。どんな研修ですか。

 

ある会社で実施した研修では、参加者全員がヒーロー役として怪獣から人々を守るという設定で、ランダムにチーム分けされた仲間とともに謎解きに挑戦しました。次々と与えられる謎を時間内に解くためには、4~5人のチーム全員が一生懸命に取り組み、協力しないと成功しません。それぞれの素の姿が出るので、仲間との相互理解が深まります。

 

そして研修ですから「楽しかったね」で終わるのではなく、振り返りワークもします。それぞれのメンバーにどんな長所があったか考え、人の話をよく聞く「傾聴の賢者」、情報をよく記憶している「記憶の番人」など称号を与え合います。仲間のいいところを褒め、自分が気づいていなかった長所に気づくことができます。

 

その後は、会社のミッション・ビジョン・バリューの浸透を目指します。ミッション・ビジョン・バリューは、迷った時にどの方向性に行くかを決める判断の根拠になります。謎解きの中にはその会社のミッション・ビジョン・バリューにつながる要素を入れておいて、後から「あなた方がこう判断したのは、実は会社が掲げるこんなビジョンがあるからですよね」と種明かしをします。そうして自分で判断したことの意味を気づかせて、ミッション・ビジョン・バリューを腹落ちさせていきます。

 

 

 

 

 

 

謎解きもビジネスも
チームでPDCAサイクルを回す

 

―導入した企業や参加者からの反応はいかがですか。

 

参加者は本当に満足してくれて、「すごく楽しかった」「普段話せないことも話せた」といった声をいただきます。とくに40代以上の男性は最初「ゲームなんて」とちょっと引いた目で見ていることが多いのですが、次第に前のめりになって必死に取り組んだり、最後にはハイタッチをしたりするんです。そんな姿を見ていると、こちらまで楽しくなりますね。

 

今の時代、大人数で飲み会するのは難しいし、若手は逆に嫌がります。運動会は運動が苦手な人はあまり楽しめません。謎解きは、どんな年代でも等しく楽しめるのがいいところです。

 

 

―謎解きを通じて、よりよい組織づくりができそうですね。

 

これまでには、仲が悪くてお互いに話さなかった女性2人が、謎解きのゲームをした後、謝り合って仲直りした、ということもありました。

 

私たちは謎解きを「楽しい」だけでなく、認知科学に基づき、楽しみながら自然に人の認知(物事の捉え方)を変える設計をしています。人に対する認知を変えることで、人間関係を改善するのです。仕事で付き合っていると「この人は細かくて面倒くさいな」といったマイナスの評価をしがちですが、謎解きをして仲間のいいところが見えると、相手への接し方が変わります。そうすると相手も自分にいい接し方をしてくれるようになります。

 

 

―謎解きに着目したきっかけは何だったのでしょうか。

 

謎解きに出会ったのは、7年前でした。友人に脱出ゲームに連れて行ってもらって、「こんなに楽しい体験があるのか」と衝撃を受けるほどはまったんです。多い時には年50回くらい行っていました。

 

謎解きは平均で2割が脱出できるかできないかぐらいの難しいゲームです。だから成功しないことが多く、終わった後には負けず嫌いな謎解き仲間たちと飲みに行って、反省会を繰り返しました。そのうちに、それぞれのメンバーの強みを分析したり、より適切な役割分担を考えたりして、成功率が上がっていったんです。お互いが理解し合っていいチームができ、PDCAサイクルを回して成果が出ると、謎解きはビジネスでも使える、と思うようになりました。

 

そしてあるとき、謎解き仲間同士が結婚することになり、サプライズでほかの仲間と一緒に半年かけて謎解きを作ってみました。2人は本当に喜んで大泣きしてくれました。大好きな謎解きを人のために作り、喜んでもらえたという体験を通じて、もっと謎解きをほかの人たちにも楽しんでもらいたいと思いました。

 

それから1年ぐらい、知り合いの企業で謎解きを使った研修を提供してみました。とても高い評価をいただけ、謎解きで起業しようと決心しました。

 

 

 

 

 

 

新規事業コンサルを経て起業も
知名度のなさに苦戦

 

―青木さんのこれまでのキャリアを教えてください。

 

大学入学前から起業したいと思い、大学生のときは学内で2つ、小さなビジネスを起こしていました。ただ社会を知らなかったので勉強のためにも当初は、いろんなことを学べるベンチャー企業に就職しようと考え、新卒ではIPOしたばかりのソフトバンクに入社し、営業として3年ほど勤務しました。

 

 

―ずっと前から起業を考えていたのですね。

 

小学校高学年のときに「死ぬのが怖い」と思ったことがあったんです。死なない方法を探してみても、伝記を読むとエジソンもナポレオンもみんな死んでいます。ただ、死んだ後もエジソンやナポレオンの生きた証は残っていますよね。そんなふうに自分も何か残せたらいいなと思っていました。

最初は演劇に挑戦して人の心に何かを残そうとしましたが、高校生のときには才能がないことに気づき、自分で新しいサービスや価値を作りたいと思いました。それが起業を志したきっかけですね。

 

 

―ソフトバンクから独立した後は、新規事業のコンサルなどを中心にキャリアを積まれましたね。

 

ソフトバンクを3年ほどで退社した直後に独立しましたが、このときはあまりうまくいきませんでした。その後は、主に新規事業に関わる仕事を続け、女性向けフィットネスクラブの「カーブス」立ち上げに加わるなど、企業内新規事業をいくつも経験してきました。

40歳からの10年間は新規事業コンサルタントとして、さまざまな企業の新規事業立ち上げに関わってきました。

 

―新規事業のコンサルをしていたら、起業もスムーズにいったのではないですか。

 

それが全然違いましたね。すでに十分な実績をもつ企業が新規事業を始めるときには、それまでのお客さんも資金も人材も十分にあるということが前提になっています。一方で独立して起業する場合は、自分でゼロからスタートします。起業したばかりの会社には知名度が全くないので、特に営業やマーケティングには苦労しました。初めのうちは知り合いの会社に導入をお願いし、最近は少しずつインターネット経由でも依頼が来るようになりましたが、まだまだです。

 

1年かけて知り合いの会社で謎解きの研修を試し、検証していたので、お客さんの要望に応える事業は作れたのですが、それを売って横展開していくことは、これからの課題ですね。

 

 

 

 

「顧客が欲しいものを作る」
仕事の仕方を大きく転換

 

 

―これまでのキャリアはどう生きていますか。

 

新規事業のコンサルをしてきたので、基本的なビジネススキルは高いと思っています。お客さんの「こんな研修がほしい」という要望にはだいたい応えることができます。

 

ただ、自分のこれまでのやり方をそのまま踏襲し続けているわけではありません。私は新規事業に関わって30年ぐらいになりますが、7年前に田所雅之さんの著書「起業の科学」に出会ったことで、これまでの日本でやってきた新規事業のやり方と、スタートアップのやり方が全く違うと気づき、自分の仕事の仕方を大きく変えました。

 

―どのように変えていったのですか。

 

従来の新規事業の作り方と、スタートアップのやり方の違いとは、顧客が欲しいものを作るかどうか、ということです。今までの日本企業は、自分や会社が作りたいものを作るというやり方をとっていましたが、本当に顧客が欲しいものを作るのがスタートアップ型の事業の作り方です。「顧客が欲しいものを作る」というのは、当たり前に思えるでしょうが、世の中のサービスの99%は会社が作りたいものです。だから、企業が生み出す新規事業のうち95%は失敗しているんです。

 

一方スタートアップは、不完全でもいいから顧客の求める商品やサービスをリリースして、アプローチする対象を狭くする、というやり方をとっています。完全なものでなくても商品やサービスを出すというのは、今までの日本企業ではあまり考えられないことでした。でもこのやり方をとっている企業は成功しています。完璧を目指して時間をかけるより、お客さんからの反応を受けて、どんどん事業を改良していくんです。

 

 

SNSやAIの登場で
起業のチャンスがあふれた時代

 

 

―起業してよかったと思うことは何ですか。

 

無駄な作業をする必要がなく、お客さんのために価値を生む行動に特化できます。フィードバックがすぐいただけるのもいいですね。

 

 

―会社のメンバーはどのように集めましたか。

 

私を含めて4人のメンバーがいるのですが、全員、謎解き仲間です。これまでのキャリアも年齢もバラバラですが、この仲間だったら何でもできると思って起業しました。

 

 

―謎解きをするのと、ビジネスをするのとでは、仲間との関係性は変わりましたか。

 

それが一緒なんです。目標に向かって、チームワークを大切にして、役割分担と情報共有をするのは、謎解きもビジネスも同じです。

 

 

―港区立産業振興センターに登記した理由をうかがえますか。

 

もともとQandを立ち上げる前に、別の企業の新規事業担当として、センターの3Dプリンターを使いに来ていました。カラー3Dプリンターをこんなに安く使えるところは、なかなかありません。施設もきれいで気に入り、起業するときには登記しようと思っていました。今は社内外の方とのミーティングや謎解きのテストプレイでセンターを活用しています。

 

港区で登記したことで、区の補助金や融資のあっせんも受けることができました。港区は創業支援が充実しているので、もっと活用していきたいです。

 

 

―今後の展望をお聞かせください。

 

さまざまな企業の声を聞いていると、ミッション・ビジョン・バリューの浸透が課題となっているところは多いです。それぞれのメンバーに自社のミッション・ビジョン・バリューを浸透させるためには、メンバー一人ひとりが理解し、共感し、腹落ちして自分ごとと認識して、行動変革していく、というステップを踏んでいく必要がありますが、それが難しいんです。

 

私たちは謎解きを使いながら、会社のミッション・ビジョン・バリューが自分にとってどんな意味があり、自分の行動をどう変えていけるかを考えてもらう研修を実施しています。この「謎解きプラスアルファ」の研修のニーズはあり、拡大していけるのではないかと思います。

 

 

―これから起業したい人に向けたメッセージをお願いします。

 

起業はとにかく大変ですが、こんなに楽しいことはありません。やらされる仕事をするのと、やりたい仕事をするのでは、同じ「働く」という言葉でも、意味が全然違います。私は今、土日も関係なく働いていますが、“楽しく学ぶ”ことを通じていろんな企業に貢献したいと心から思えています。

 

そして、今の時代は起業のチャンスしかないですよ。できるなら私も20年若く生まれてきたかったくらいです。まず、人手不足なので人の価値が上がっています。さらに時代の変化が早く、AIなど新しい技術やトレンドがどんどん出てくるので、時代についていける若者が価値を生み出しやすい世の中になっています。

 

私は「今はストックが効かない世の中になった」とよく言っています。これまでは20年、30年働いて培ったノウハウや人脈を生かして仕事をできましたが、そんなアセットの意味はだいぶなくなってきています。人脈がなくてもSNSですぐにいろんな人とつながれますし、ノウハウはAIでカバーできるようになっています。そういう意味で、新しいものをすぐ取り込んで、素早く価値を生み出せる若者は強いと思いますね。

 

 

 

 

 

 

記事投稿日:2025年2月28日